組み立てて、それから 鉄道時計編

昨夜から体調不良の兆しがあった。こりゃやばいかも?と思っていたら夜明け前に発熱と、それに伴う全身の痛みがあって、苦痛に喘ぎながら何度も目覚めていた。

鉄道時計のパワーリザーブタイムは、7月6日の15時からスタートして、目標の40時間となる本日午前7時。発熱で頭がボケボケの状態ながらも、引き続き動いていることを確認した。それから午後になって、香箱のぜんまいが解けてトルクが失われても、ゆっくりとしたスピードでチク…タク…チク…タク…と時を刻み続けており、潤滑状況や軸の状態は極めて良好と判断した。

良好と分かった以上は、一旦組み立てて、鉄道時計としての姿に戻す。まずは市販薬を服用して、頭痛とクラクラする症状を抑え込んでおき…。

ムーブメントに文字板を取り付けて、いよいよ針打ち。時計の表情や性格が決まる部分なので、慎重に慎重を重ね、一本ずつ丁寧に打ち込んでいく。

三針が揃ったところ

インデックスを目安に、三本の針がしっかり重なるように打ち込む。次に側面から見て、針と針の隙間調整だ。

隙間調整、良好

こちらもばっちり決まる。ピンセットの微妙な力加減一つで隙間の具合が変わってくるので、息を止めての調整が続いた。思い通りに仕上がった瞬間の爽快感は、何度味わっても本当に心地いい。これこそが機械いじりの醍醐味だ。

組み立てているときは特に調整は行っておらず、受け石の清掃、エピラム処理後に注油を行っているだけだ。そんな状態で、びぶ朗(タイムグラファー)で歩度を見てみると。

びぶ朗で精度チェック

相変わらず右下がりで二本のグラフが表示されているが、ずいぶんと改善した。

修理前の鉄道時計の歩度

こちらが分解前の歩度。

グラフの右下がりは遅れを意味するので、年差クォーツを基準に運針させてみると、次第についていけなくなって遅れがちとなっていった。

これを改善するには、いよいよテンプ本体を直接いじらなければならない。しかも現在使っているびぶ朗では、周囲の音をガンガンに拾い、文字板上でしか計測できないことから、テンプを動かしながら歩度を見ることができない。どうせなら、普及帯のクォーツ時計と同じような精度まで仕上げたく、次なる手段を考えなければならないようだ。

パワーリザーブの測定 鉄道時計編

朝っぱらからオウム真理教の元代表、麻原彰晃こと松本智津夫死刑囚、他元幹部6名に対する刑執行速報に驚き、情報収集を重ねていたらシビックRをディーラーに預ける時間が近づいていた。一旦帰宅し、空いている時間は預かっている鉄道時計の組み立て作業を行っていた。

シンプルな機械式時計なので部品点数は少なく、組み立て作業は淡々と進む。今回はエピラム処理を行っており、コーティングで潤滑油の飛散を防ぐ効果を期待しつつ、注油しながらどんどん組み立てていく。途中、正しく動作するかザラ回しによるチェックを行い、軽々動く様子を実際に見て一安心。同時に、心地よいチクタク音も聞くことができた。潤滑油がしっかりと広がっているためか、保持台に軽く触れるだけで、アンクルが右に左に動いてしまうほど、よく動いてくれる。

パワーリザーブの測定開始

一連の組み立てが終了し、最低限の動作確認ができる状態まで仕上げたら、次はパワーリザーブの測定となる。香箱を組み込む際に、ネジの締め付けに応じてぜんまいを巻き上げてしまう構造になっており、完全に解けるまでの時間を有効利用する。古いムーブメントなので正確なパワーリザーブタイムが分からず、40時間程度が目安となりそうか。

15時ジャストから計測開始し、40時間後は日曜日の午前7時となる。このときまで、テンプが往復運動を続けていれば、手巻きの機械式時計として十分な使用時間を持っていることや、ぜんまいが解けることで失われていくトルクでも動くくらい、各軸の健全性が保たれていることが確認できる。はたして。

エピラム処理 鉄道時計編

無事に磁気抜きが終わった鉄道時計に、いよいよエピラム処理を行う。エピラム処理は部品へ直接行う一種のコーティングで、潤滑油を撒き散らしにくくすることで、長く留めることができる。

時計修理用として売られているエピラム処理液は凄まじく高価なもので、Amazon価格の場合、100cc入りで20,000円前後。ちょっと手が出ない。ところが、無水エタノールとステアリン酸を個別に入手し、配合すると自前で作れるという情報をキャッチし、レシピも簡単に見つかることから、さっそくエピラム処理液を作ることになった。

必要なものは無水エタノール100cc、ステアリン酸0.08~0.09g、電子はかり、ビーカーとガラス棒、シャーレや陶器系の器など。

電子はかりで計測

200g入りのステアリン酸から、0.08~0.09gしか使わないので、パックはほぼ一生分の量となる。実際はナマモノなので長期保存には向かず、適度に買い換えることになるが。量ったステアリン酸を100ccの無水エタノールに混ぜて、上澄み液を別の容器(ここではシャーレや展示用のマグカップ)に移し、そこで時計の部品を30秒ほど浸して、自然乾燥でコーティングしていく。

入手に時間が掛かったのが実は無水エタノールで、地元の薬局に行っても「うちには70しかなくて」と、消毒用しか見当たらず。しかも、お互いに消毒用や無水といったキーワードを言わず、私も「99が欲しいんですけどね?」と言うあたり、もしかしたら別の用途で薬品を欲しがっている客に見えたのかもしれない。

時計修理中のデスク

各部品を漬け込んで、しっかり乾燥させれば、いよいよ組み立て作業に入れる。時計のオーバーホールをする機会はそう多くなく、不完全な保管で質を悪くするより、その都度作り出したほうが良質な処理液を用意できると考えたため、自前のエピラム処理液は、燃えるゴミとして廃棄した。

義務教育時代は理科室が大好きで、現状のにビーカーや薬品が並んだ机になって、大満足。

ヘッド消磁器で時計の磁気抜き 鉄道時計編

機械式時計においては、磁気に近づけてはならない。磁力の影響で精度が狂い、最悪止まることがある。機械式時計だけでなく、クォーツ式でも磁気を帯びたものに近づけると、簡単に狂う。スマホやパソコンは機械式時計にとっては大敵で、バッグや財布の留め具に使われる磁石も、やはり危ない。

時計が磁気を帯びてしまうと精度が悪くなり、しかも磁気を完全に抜くには分解して、部品単位で磁気を抜いていかなければならない。そんな厄介な症状が、預かっている鉄道時計で発生していたことが判明し、またも作業中断。磁気抜きの手段を取ることになった。

ネット通販やオークションでは、時計用磁気抜きツールがピンからキリまで、多数見つかる。特に目に付くのが、青いケースの磁気抜きツール。典型的な中華ツールのようで、レビューも様々。国内在庫ではなく、中国からの発送となれば、時間が掛かる点から却下となった。

磁気抜きに関しては時計だけでなく、オーディオ界にもあった。カセットテープの録音/再生ヘッドは、本来は定期的に磁気抜きをしなければならず、かつてはそのためのツールが多数売られていたようだ。デジタル音源がメインになった現在においては、新品はなくなっており、中古品が流通している状況だ。説明書付きのヘッド消磁器をゲットし、さっそく時計の磁気抜きにチャレンジしてみることになった。

説明書を読むと、『強い磁気が発生するため、腕時計は必ず外すこと』『1mは遠ざける必要がある』といろいろ書かれており、部屋の真ん中に磁気抜きしたい部品を置き、そこから周囲1m以内に障害物はなくして、スムーズに動かせるようにセッティングする。電源を入れずに動かす練習を何度かして、いざ本番。

磁気抜きの再現

磁石の棒と化していた竜頭の磁気抜きでは、消磁ヨークを平行に動かしながら静かに離していくと、うまく磁気が抜けることが分かった。方位磁針をグルグル回すほど磁気を帯びていた竜頭は、無事に磁気抜きに成功。幸い、竜頭以外の部品については磁気は帯びておらず、難しい工程をクリアすることができた。

オーディオ用のツールが、時計にも使えることが分かって小躍りして喜んだほどだ。オーバーホール中に磁気帯びが判明すればすぐに消磁できる体制が整い、また一つステップアップすることができた。

これが磁気帯びか 鉄道時計編

腕時計を磁石に近づけてはならないことは常識だが、それでも今どきの世の中であれば、身の回りは磁石まみれ。最も身近な存在がスマホ等の携帯電話の類で、スピーカーやカバーに磁石があり、使っている中で腕時計とスマホが近づいてしまい、運悪く帯磁してしまうこともあるそうだ。

預かっている鉄道時計の修理はゆっくり進んではいるが、保管ケース内における部品の転がり方が、どうもおかしい。例えば竜頭。たまたま付着しているのではなく、明らかにくっついているような気がして、そっと持ち上げてみると。

磁気帯びした竜頭

磁気帯びかいな…。こんな状態で組み立てができるわけがなく、作業は中断。ちょうど部品単位にバラされているので、個別に磁気抜きにチャレンジできる!と、ポジティブに捉えることはできるが、また道具の手配からスタートか。ボーナスシーズンで、財布の口が緩んでいるのが怖いところ。

時の記念日ということで

シビックRを運転しながら、BGM代わりのFMラジオ(J-WAVE)からは「今日は時の記念日でー」とナビゲーターの声があって、そういう日があると知る。CMがシチズンのXCだったことも納得。

拙いスキルながらも、時計修理に携わっているところだ。指先を精度良く動かす訓練、微細な歯車の具合を見抜く眼力、機械修理技術力を得るための勉強をさせてもらう機会でもあるので、請求する修理代といえば缶コーヒー一本分くらい。修理が終わる日は全く見通せず、軸折れや焼き付き等の致命的な故障が見つかれば諦めてもらうといった制限はあるが、預かった時計は今のところは無事に直せていて、それぞれのオーナーの下で、日々元気良く運針しているそうだ。

時計はオーナーの人生に寄り添っているため、必ずと言っていいほど時計に絡む思い出や、忘れられない出来事がある。修理してほしいと持ち込まれる時計を預かるときは、いつ買ったのか、どういう使い方をしていたのかといった話を絶対に聞くようにしている。そんな過去を語るオーナーの表情は穏やかながらも、時計の運針が止まって使えなくなった寂しさと諦めが見え隠れするもの。

修理が完了し、オーナーへ無事に返却できたときの喜び方は、また使える嬉しさと再び運針している様子に対する驚きも含め、手を付けた私も嬉しくなる最高の笑顔を見せてくれる。この瞬間が、部品代や技術料代わりになっているのかもしれない。ムーブメント内部の写真も一緒に見せ、どこが悪かったのか、どのように修理したかも細かく説明し、医者ではないが「何かあればまた持ってこい」「次回もオーバーホールやったるぜ」。修理した以上は、後に何か不具合が見つかれば、再び預かって対応せねば技術屋として失格だ。

腕時計たち

誕生日は覚えていても、生まれた時間までは知らないという人は多いのではないだろうか。生まれたその瞬間から、時間は片時も離れていない。学校、約束、仕事、嬉しいとき、悲しいとき、全てにおいて時間が関わっている。モータースポーツの世界においても、コンマ以下のタイムを競い合っている。宇宙においても、探査機との電波通信に掛かる時間で、地球からの距離も分かる。

腕時計に限らず、携帯電話や街中の時計を見るかもしれない。時計を見て、応じて次の行動を取ることから、実際のところは『時間を見るだけの道具』ではなく、『時計は人生のポイントレール』みたいなものか。失った時間は取り戻せないので、これからの時間をどう活用していくか。時計に支配される人生より、時間を支配する人生のほうが面白いと思うのは、私だけではないはず。

時計修理を通じて、貴方の人生を僅かばかり見せてもらいます。

古いG-SHOCKの電池交換

「バックライトを点灯させると、文字が暗くなってしまうんです」と持ち込まれたカシオのG-SHOCK、DW-9000/1627。中学時代から使っているもので、仕事の絡みもあって現役に復帰させて、再び使いたいそうだ。

古いG-SHOCKにおいて、最も厄介な現象(持病)が、加水分解だ。耐衝撃構造のケースはウレタン樹脂を使っており、経年で白化とベタつきから始まり、最終的にはケースに掛かる自身の重さにさえ耐えられなくなり、バラバラに砕けてしまう弱点を抱えている。欠陥や不具合ではなく、ウレタン樹脂の特性であるため、基本的には加水分解を止める手段はなく、一度崩壊が始まれば直すことは不可能。加水分解の数少ない対策は、放置せずに装着して適度なストレスを与える、使用後はキレイにして完全に乾かす、保管するにしても高温多湿や直射日光を防ぐ…といったところ。

まずは外装の点検から。加水分解を予感させる変色やヒビ割れはなく、状態は極めて良好。20年以上の年数が経過していながら、長年の使用による汚れ以外の異常が見当たらず、奇跡的なコンディションを保っている。

ケースとムーブメントを分離

ケースとムーブメントを慎重に分離し、汚れが蓄積しているケースとバンドはブラシ類を使って、丁寧に洗浄する。ムーブメント内の電池を交換して…。

電池を交換したらACリセット

新しい電池をセットしても、液晶部分には何も表示されないまま。デジタル時計のムーブメント上にはAC(All Clearの略か?)と表記された端子があり、電池のプラス極をピンセットでショートすることで、内部回路をリセット(再起動)させて、時刻表示を復帰させる必要がある。「新電池装着にて又入れ、ケ良」。

パッキンに専用シリコングリスを塗布

いきなりケースを閉じるのではなく、パッキンが入る溝は全てのホコリや小さな異物を摘み出し、入念に清掃しておく。防水パッキンについても、時計専用のシリコングリスを塗布しておく。パッキンは劣化で痩せてしまい、防水機能が低下したままなので、シリコングリスで少しでも防水性を確保。DW-9000系はパッキンの向きがあるので、ここを間違えると大変なことになる。

『100円ショップで売られているコイン電池を買って、DIYで時計を直しました』系の記事では、殆どがパッキンへのシリコングリスを塗布したかどうかの記載がない。ただ単にアップしていないのではなく、シリコングリスの重要性を知らないのかもしれない。そういった安易な修理記事が検索エンジン上では上位になっているのも、けっこう怖いところ。

ムーブメントをケース内に組み立てて、返却準備よし

洗浄を終えたケースにムーブメントをセットし、バンド類を装着して元通りに組み立てていく。全てのボタンを押して、異常なく操作できるか、電子音が正しく鳴るかチェックして、返却準備よし。お待たせしました。

コンディションは良好なので、ガンガン使ってあげることが、劣化を遅らせる唯一の手段。古い時計であることは間違いないので、機械式時計と変わらぬ緊張感を味わったが、これもまたいい経験になった。

分解調査 鉄道時計編

不調で預かっているセイコーの鉄道時計を実際に分解し、どこに不調の原因があるのか診断していく。セイコーの『61スカイライナー』はいつか入手したいと思っているところに、今回の鉄道時計を預かった。鉄道時計と61スカイライナーは同系列にあたるムーブメントなので、オーバーホールの習得を兼ねることになった。

風防を開け、針を抜く

まずは風防を開けて、針を抜く。圧入状況が全く予想できず、変に力を入れて曲げてしまわないよう、慎重な作業となる。針や文字板は時計の顔であり表情であり、僅かな損傷でも非常に目立つので、この工程を終えたら一休みを入れるほどだ。

いきなり文字板が外れる

一休みを終えたら、ケースからムーブメントを取り出すために、時計本体を持ち上げた。するとカラカラと音がして、文字板が脱落しかけてヒヤッとさせられる。原因は、文字板裏側にあるピン(干支足)を締め付けるネジが緩んでいたことによるもの。これで今までよく足が折れなかったな…と思うのと同時に、ネジの緩みはあちこちから散見されることになった。

文字板を外したところ

文字板が外れたことで、ケースからムーブメント本体を取り出すことができた。ツツ車(時針用の歯車で、12時間で1周する)は文字板の間に挟まれたスプリングワッシャーで押さえてあり、このまま裏返すと脱落する。ツツ車を抜き、オシドリやカンヌキも順番に外して、文字板側の分解を進めておく。

輪列受けのチェック

今度は輪列側だ。輪列受けを外し、ダイヤフィックスと名づけられた耐震機構の状況をチェックしていく。分解と組み立てが地味に厄介という事前情報から、現物を見て納得。ルーペでのチェックでは異物は見当たらなかったので、非分解によるベンジン洗浄に留めておく。

テンプ一式まで分解

分解作業はあっという間に進み、残るはテンプ一式となった。ここでもう一度休憩を入れて、手先と目をしっかり休ませてから作業を再開する。慎重にテンプを持ち上げて、ムーブメントから外していく。

テンプを外してアンクルをチェック

残るはアンクルだけとなった。ここまでくれば、分解作業は一区切りとなる。外した歯車を一つひとつチェックしていくと、長い間に渡って油切れのまま動作していたような痕跡がいくつも見つかり、これでは正しい運針には程遠く、遅れがちになってしまう。今のところ、落下による損傷らしい異常は見当たらず、この点では一安心か。

ここから折り返して、いきなり注油しながら組み立てるのではなく、長期間の運用に耐えることを期待して、薬剤の塗布…エピラム処理を行ってみることになった。購入するとなれば凄まじい値段のようだが、材料を揃えれば自前でも調合できてしまうらしい。レシピは簡単に見つかるので、それらを参考にして準備していく。

外した文字板はカメラのレンズケースに保管

とても大きな文字板は、部品ケース内に収まらないので、カメラのレンズケース内で保管しておく。ちょうど発泡ウレタンのシートが敷いてあり、文字板の足の保護も兼ねることができる。

腕時計の初めてのオーバーホールは、セイコー5(Cal.7S26)だった。その経験をしっかり覚えていたようで、今回の分解作業そのものはとても順調に進み、古いムーブメントでもセイコーはセイコー、Cal.7S26にどこか似たような印象を抱いていた。必要な材料が揃うまでは作業中断。焦って作業を再開しても、いい結果には至らない。腰を据えて、準備を積み重ねていくことになった。

鉄道時計の精度チェック

ようやく、時計をじっくり眺められる時間が確保できた。プライベート用のオメガスピードマスターは拭いてキレイにして、仕事用の年差クォーツも拭き掃除。ソーラー腕時計の充電でベランダに干し、不調のグランドセイコーの様子を点検して。

日常の手入れが終われば、いよいよ預かっている鉄道時計の番だ。歩度測定の練習を兼ねて、さっそく精度をチェックしてみると。

修理前の鉄道時計の歩度

不調を抱えている機械式時計の見本みたいな、極端な右肩下がりのグラフが表示され、これには驚かされた。遅れが生じていることは預かったときの目視点検で分かっており、15分で4秒の遅れだった。それが実際には、一日500秒近い遅れになっているという測定結果。

懸念していたとおり、テンプの動きが悪くなっている。正常ならばグラフは一本となるはずが、二本のグラフが描かれていることから、激しい片振り状態が発生している。ビートエラーが135.1msとは、素人の対処でどうにかなるレベルではない。テンプのバランスとひげぜんまいの調整から見直さないと、完治しない。例えばブランコに乗っていて、背中側には小さく振られながら、腹側は大きく振られ、しかも振られる時間と角度が均等ではないことから、吐きそうになっているようなものか。

分解して洗浄、注油と組み立てはともかく、テンプ本体に手を出すのは困難すぎる。現状の歩度測定では、時計の姿勢(置き方)で変わる精度の違いまでは点検しにくい。まして、測定しながら調整というのは難しい。組みあがったタイミングで使えるよう、機材も揃えていくとしようか。

鉄道時計をお借りして

会社でたまたま時計の話をしていたところ「鉄道時計を持っている」一言があった。どういう時計か詳しく聞いてみると、自分でぜんまいを巻くタイプだそうで、そうなると61スカイライナーベース…セイコーの鉄道時計だろう。そして秒針の位置は、普通の腕時計のようにセンターセコンドタイプ。ただ、「調子が悪くてすぐに遅れる」「直せれば直したいが、どうしたらいいかも分からない」とのこと。

どういう不調なのか興味を持ち、実際に会社へ持ってきてもらい、その場で簡易的な診断を行ってみた。遅れについては、15分で4秒の遅れなので、時計としては使えたものではない。ただ、ぜんまいの巻き上げは軽やかで、止まっているわけではなく、動作だけならば生きていて、しかも内部に錆はなし。不調の原因調査と解決方法を見つけるために、しばらく預かって詳細なチェックを行ってみることになった。

SEIKO PRECISON 6110-0010

セイコーの鉄道時計。いつか入手しようと思っていた憧れの手巻き式機械時計の一つで、調査名目で一時的ながらも手に取ることができた。運転台に置かれていると計器らしいちょうどいいサイズは、部屋に持ち込むと妙に大きく感じる。文字板には伝統の諏訪マークが入り、今なお通ずるデザイン。1977年4月製、国鉄内で使われていたそうだ。

SEIKO Cal.6110

ムーブメント、Cal.6110とご対面。駆動音がとても大きく、裏蓋を閉じていてもハッキリと聞くことができ、開放状態ではより大きくなる。スペック上では、テンプは毎時21600振動のようだが、動きが悪いのか緩やかに見える。テンプのヒゲぜんまいに絡みはなく、美しい渦巻きは保たれていた。遅れの原因は、まず脱進機あたりを見直すことになりそう。

オーバーホールの痕跡

ムーブメントの固定ねじ周辺には、大きな傷が見受けられることから、何度かオーバーホールを行っている可能性がある。それにしても、この派手な傷は酷い。どこの誰が分解したか分からないが、プロがやったならば失格、職人/時計師を名乗る資格はない。先に掲載した写真においても、文字板に二つ、締め過ぎたねじ(通称乳首)のようなものが写っていることから、無理なオーバーホールで、余計なダメージを与えていないか不安が出てきた。

長針と短針のズレ

さらなる不安要素が、この長針と短針のズレ。適度に圧入されている部分なので、ズレるとなれば落下させてしまうのも原因の一つに含まれている。製造から今日まで41年以上に渡り、どういう扱いをされてきたかは分からず、道具として使われ続けてきた過去ならば、一度や二度、落としていたとしても不思議ではない。各歯車の軸も点検せねば。

不調の原因を探るのと同時に、どうにかして直せないか、血が騒ぐもの。幸い、返却期限日等は設定されていないので、焦らず時間を掛けて、チェックしていこうと思う。