不調で預かっているセイコーの鉄道時計を実際に分解し、どこに不調の原因があるのか診断していく。セイコーの『61スカイライナー』はいつか入手したいと思っているところに、今回の鉄道時計を預かった。鉄道時計と61スカイライナーは同系列にあたるムーブメントなので、オーバーホールの習得を兼ねることになった。

まずは風防を開けて、針を抜く。圧入状況が全く予想できず、変に力を入れて曲げてしまわないよう、慎重な作業となる。針や文字板は時計の顔であり表情であり、僅かな損傷でも非常に目立つので、この工程を終えたら一休みを入れるほどだ。

一休みを終えたら、ケースからムーブメントを取り出すために、時計本体を持ち上げた。するとカラカラと音がして、文字板が脱落しかけてヒヤッとさせられる。原因は、文字板裏側にあるピン(干支足)を締め付けるネジが緩んでいたことによるもの。これで今までよく足が折れなかったな…と思うのと同時に、ネジの緩みはあちこちから散見されることになった。

文字板が外れたことで、ケースからムーブメント本体を取り出すことができた。ツツ車(時針用の歯車で、12時間で1周する)は文字板の間に挟まれたスプリングワッシャーで押さえてあり、このまま裏返すと脱落する。ツツ車を抜き、オシドリやカンヌキも順番に外して、文字板側の分解を進めておく。

今度は輪列側だ。輪列受けを外し、ダイヤフィックスと名づけられた耐震機構の状況をチェックしていく。分解と組み立てが地味に厄介という事前情報から、現物を見て納得。ルーペでのチェックでは異物は見当たらなかったので、非分解によるベンジン洗浄に留めておく。

分解作業はあっという間に進み、残るはテンプ一式となった。ここでもう一度休憩を入れて、手先と目をしっかり休ませてから作業を再開する。慎重にテンプを持ち上げて、ムーブメントから外していく。

残るはアンクルだけとなった。ここまでくれば、分解作業は一区切りとなる。外した歯車を一つひとつチェックしていくと、長い間に渡って油切れのまま動作していたような痕跡がいくつも見つかり、これでは正しい運針には程遠く、遅れがちになってしまう。今のところ、落下による損傷らしい異常は見当たらず、この点では一安心か。
ここから折り返して、いきなり注油しながら組み立てるのではなく、長期間の運用に耐えることを期待して、薬剤の塗布…エピラム処理を行ってみることになった。購入するとなれば凄まじい値段のようだが、材料を揃えれば自前でも調合できてしまうらしい。レシピは簡単に見つかるので、それらを参考にして準備していく。

とても大きな文字板は、部品ケース内に収まらないので、カメラのレンズケース内で保管しておく。ちょうど発泡ウレタンのシートが敷いてあり、文字板の足の保護も兼ねることができる。
腕時計の初めてのオーバーホールは、セイコー5(Cal.7S26)だった。その経験をしっかり覚えていたようで、今回の分解作業そのものはとても順調に進み、古いムーブメントでもセイコーはセイコー、Cal.7S26にどこか似たような印象を抱いていた。必要な材料が揃うまでは作業中断。焦って作業を再開しても、いい結果には至らない。腰を据えて、準備を積み重ねていくことになった。