家路を急ぐ、東海道線。品川駅を出発した時点で数分の遅れがあり、他路線との直通運転があまりにも広範囲に渡り、ちょっとした遅延が大多数の路線へ影響を及ぼすようになった。そんな遅れを取り戻すかのごとく、普段よりハイペースで列車は西へ西へと走り続ける。
下町ロケットでお馴染み、東京都大田区に突入し、蒲田に近づくころ。緩やかな減速が始まった。この先は速度制限や臨時工事の徐行などは無かったはずなので、電車本体のトラブル、非常発報、異音感知、踏切障害のどれかかも…と察知し、急停車に備える。幸いにして非常ブレーキまでは至らず、駅に滑り込むような減速で停車し、すぐに車掌が「この先の踏み切りで危険を知らせる信号が点灯しているため、非常停止しました」という報告と「状況を確認しています」と、放送が入る。
ブレーキのエアが抜ける緩解音と共に、列車は再起動…するが、歩くような速度だ。「この先の異常を知らせる踏み切り間で距離があるので、現場まで近づきます」ということで、問題の踏み切りまではそれなりの距離があるらしい。そして問題の踏み切りが近づいて停止したと思ったら、車内が真っ暗になり、いわゆる停電状態に。
「架線の障害を調べるために、パンタグラフを一旦下げました。繰り返します。架線の障害調査のため、パンタグラフを下げています。故障ではありません」
なるほど、エアセクションにでも引っかかっていたのか。エアセクションとは、変電所からの電力供給の境目となる部分。例えば、A変電所とB変電所がそれぞれ公称直流1500Vを供給しているが、両変電所からの電気は微妙に電圧が異なったりするので、そこにパンタグラフという導体でショートすると、電位差による発熱で架線が切れたり、パンタグラフを壊してしまう恐れがある。普通に走っている分には問題はないのだが、最も電力を必要とする停車した状態から動き出すときに、エアセクションにパンタグラフがあると大電流であっという間に架線を溶断、架線が復旧するまで路線そのものが運行できなくなり、大きな事故となってしまう。
「運転士がパンタグラフの確認を行っております。しばらくお待ちください」
乗客のみんなは暗い中でもスマホの画面に集中しており、青白い顔があちこちで浮かび上がっていた。停電時間は3分ほどだったが、誰も言葉を発することなく、静かに待っていた。程なくしてパンタグラフが上昇し、電力供給が回復。うーん、文明開化。仕事柄、電車のパン下げ、パン上げは当たり前のことで、電力の入り切りは毎日経験していること。それでも、営業運転中の列車での経験は初めてだったりするので、妙に感動的だったりする。
「架線の異常はなかったことから、パンタグラフを上げました。現場の確認を行っております。運転再開までしばらくお待ちください」
安全の確認が取れて、警笛と共に運転再開。やけに力強く加速し、六郷川橋梁を猛スピードで渡りきり、川崎駅には14分遅れで到着したのだった。混雑による遅延時分がさらに増した列車は、次の横浜駅に向かってダッシュを決めていった。
今回のトラブルで、JR東日本らしくないと感じた事柄があった。それは、車掌が事情を事細かに放送していたことだった。踏み切りの非常信号はともかく、架線の障害点検でパンタを下げる、そして上げる。架線に異常がなかったこと。運転士が現場を確認中という実況(?)まで。いつもなら「状況を確認しています。新たな情報が入り次第、ご案内します」の一点張りなので、専門用語を用いてでも、何をやっているのか放送してくれたほうが、乗客としても安心できるだろう。こういう車掌が一人でも多くなって欲しいところ。この一件で、トラブルのときは専門用語も躊躇せず使ったほうがいいということを知ることができた。