スウォッチは、安価で高性能な日本製腕時計に対抗するために生み出されたブランド。スイス製時計=高価という常識を覆すため、ケースの素材から製造方法まで徹底的に低コスト化を行い、さらには二度と同じデザインを出さないというファッションな側面を含めた一種の限定販売戦略により、成功を収めた…というのがよくある解説。
時計を構成するムーブメントについては、完全非分解構造で、いわば使い捨て。オーバーホールを行って使い続けるようなモノではなく、だから低コスト化が実現できたとも。セイコーの38クォーツと同じく、電池ボックス部分にフタがあり、そこから電池交換は可能。つまり、オーバーホールができないからといって短命ではなく、ムーブメントが不調になるまでは使い続けることができる。
機械いじり趣味を持つ以上は、「低コストを実現した精密機械」で「非分解構造」となれば、逆に分解して中身を見てやろうと動き出すわけで。

その生贄になったのが、スウォッチのクオーツモデル。だいぶ古いモデルのようで、製造時期やシリーズ等は一切不明。電池を交換しても動かなかったことから、分解調査のサンプルとして使うことになった。

ずっしりとしたステンレスケースの裏側には、電池ボックスの蓋がある。余計な工具は使わず、適当な硬貨を当てて回せば蓋が開くほど、簡単な構造。

コジアケとハンマーを使い、ガッチリと噛み合っていたベゼルとケースを分離する。続いて、単純に圧入されているだけの竜頭を引っ張って外すことで、ケースからASSY化されたムーブメントを取り出すことができる。竜頭脱着用の部品がないことが分かり、低コスト化の一端をさっそく見ることになった。

風防はムーブメントのシャーシに接着されており、割って外す。薄くてペラペラな板状ではなく、しっかりとしたドーム型風防で、デザイン性を優先した形状。風防の上から強い圧力を掛けると、バシッという音と共にヒビが入った。

ムーブメントはETA製。スイス製造、No(0)JEWELSという表記も見える。

今度は文字板を外す。これまた接着されており、シャーシから剥がすようにして外す。ちなみに、ここまでネジは一本も出てきていない。

カレンダーディスクこと、日車周辺。左側にある大きな銀色の歯車は、日回し車。これでカレンダーディスクを一日毎に回す。右側にある小さな歯車たちは、日車早送り車や日回し中間車など。竜頭を引っ張って、カレンダーを調整するときに動作する。中央にあるツツ車は、時針用。12時間で一周する。

日の裏押さえを外して、日車や日回し車を外す。するとシャーシ内部に埋め込まれた制御回路、輪列が姿を現す。

ムーブメント拡大。右下にあるのがICと水晶振動子。まず目を引いたのがIC。今の時代に、DIPなICを使うとは、これも安価に抑える工夫だろうか。制御回路用の金属板は、シャーシに直接装着されていることが分かる。シャーシそのものを回路の構成部品とすることで、必要部品数削減と製造に要する時間を減らしているようだ。
上側を大きく占めるのが、針を動かす輪列群。駆動力を生み出すコイル/ステーターは、シャーシのピンにセットされているだけで、取れないように溶着されている。プラスチックのピンを溶かすことで部品固定し、ネジを一切使わないことで製造コストをなくし、締め付け用の機械も不要になる。ここまでケチるか…?というくらい、部品数が少ない。
写真上では分かりにくいが、竜頭の巻き真(軸)には、一回差したら抜けなくなるような形状とバネが組み込まれていた。オーバーホールは行わず、竜頭の脱着も考えられていないためにできる、割り切った構造をしていた。

駆動ユニットと輪列をシャーシから外す。各歯車の並びは一般的なクオーツ時計と全く変わらず、見慣れた配置となっている。歯車のデザインが、セイコー等の日本製のものとは異なり、The Swatch Groupの製品であることが感じ取れる形状。

シャーシと一体化している制御回路。こちらもシャーシのプラスチックのピンに金属板をセットし、ピンを溶かすことで固定している構造。シャーシに部品を組み込み、ヒーターで溶かせば固定と回路が成立するので、短時間で大量に製造することが可能になる。

続いて、針を動かす動力源を見る。ローターの歯車が全く見えないので、さては老眼か?と一瞬ドキッとしたが、ライトで照らしながらルーペでよく見ると、二本の角のようにピンが立っているだけ。これこそが歯車であり、噛み合う相手を回転させる構造ならなんでもいいらしい。高価になりがちな金属のピニオンギアを作るくらいなら、二本のピンを立てたプラスチック製のローターで安く作るほうが早い。プラスチックなら、射出成形で次々と製造することができる。

分解時にローターのピンを曲げてしまったので、正常な噛み合いではないが、回す相手は秒針用の四番車。華奢なピンながらも少しずつ回していくことで、重たい日車を回すだけのトルクを積み重ねることができるようだ。
以上、クオーツ式のスウォッチを分解し終えた。低コスト化のためにネジを使わず、溶着や接着で製造されていることから、確かにオーバーホールは不可能。分解したスウォッチは、不燃ごみとして処分することになる。
ムーブメントの製造企業ETAはThe Swatch Groupの系列会社であり、スウォッチはThe Swatch Groupが持つブランドの一つとして販売され、分業化された系列会社内でまとまっている。日本の安価なムーブメント(Cal.Y121EやCal.2035等)とは違った、数々の低コスト化手段がとても興味深い時計だった。