130,000kmを超え、まだまだ頑張れそうな気配の中、クラッチペダルの踏み込みに違和感を覚えるようになった。クラッチペダルを動かしながらフロア下から覗いてみると、ギシギシと大きな異音まで発している。もともと前オーナーの使い方が荒く、そして現オーナーにとってしてみれば初の所有車となって、蓄積し続けてきたダメージがここにきて限界を迎えたらしい。このまま様子見状態を継続することもできなくなり、フライホイールを含めた、クラッチ周辺のオーバーホールを行うことになった。

車体から取り外され、検証のために一旦引き取ってきたクラッチ周辺の部品たち。クラッチディスクカバーはともかく、クラッチディスク本体及びフライホイールの形状が、普段イメージする形状と全く異なっている。

▲EK9シビックRの例。クラッチ周辺をイメージする形状といえばこれ。
なぜ、形状がここまで異なるのか。調べてみると理由はしっかりあった。それについては後述するとして、まずは部品の損傷状態からチェックを開始。

まずはクラッチディスクから。ミートしたときの衝撃を吸収するトーションスプリングの無いソリッドタイプで、衝撃吸収役はフライホイールが担っているため、クラッチディスクについてはこのようなシンプルな形状になった。フェーシングに刻まれているスリットは外周部分ではなくなっており、ミートする際は外周から接触し、内周に向かって圧力が広がっていったようだ。

整備書によれば、クラッチディスクの残量はフェーシングとリベットの段差で計測し、限度は0.3mm。残量は0.5mmほどで、ちょうどいいタイミングでの交換となった。これでもまだ滑りといった症状は出ておらず、限度を迎えてから異変が出るのかもしれない。

クラッチカバーのディスク接触面はそれなりに傷ついているが、バランスよく分散していることから、偏ることなく均一に接触していたようだ。凹みが感じられる大きな傷はなく、局所的な高熱で歪んでしまう熱変形も見当たらなかった。

ダイヤフラムスプリングの先端、レリーズベアリングと接する部分の摩耗はしっかり進んでいた。高さには不揃いはなく、正常に動作していたようだ。

そしていよいよ、見た目からしてゴツいフライホイールをチェック。これはデュアルマスフライホイールと呼ばれるもので、重量は12kgに達し、今回交換した部品の中では最も高価で10万円。クラッチディスクにトーションスプリングがない代わりに、クラッチミート時の衝撃をここで吸収できるよう、円周方向に僅かばかり動くようになっている。
重く高価なデュアルマスフライホイールを採用するに至った理由として、アイシン・エーアイ製6速ミッションが大きく関わっている。ミッションは、シルビアに比べれば軽量コンパクトなマツダ・ロードスター用に開発されたものをベースとしていることは有名で、キャパシティが小さくガラスのミッションとも言われている。しかも6速ともなれば内部のギヤが薄く共振しやすくなり、「ガラガラ…」といった歯打ち音や「ンガァアア…」といううなり音が出やすくなる。
わざわざ高価で重たいデュアルマスフライホイールを搭載した理由は、アイシン・エーアイ製6速ミッションの弱点を露呈させず、そして守るためだった。エンジンのフィーリングをあえて悪化させることで、ラフなクラッチ操作でもミッションへ伝わる力を緩衝させて壊さないように、そして薄く歯打ち音が出やすいギヤを黙らせている。同じミッションを使っているトヨタ・アルテッツァでも、やはりデュアルマスフライホイールを採用している。

▲12kgものデュアルマスフライホイールは、弱いミッションを守るだけでなく、SR20エンジン特有の、3,000rpm付近で起きるあのブルブルと揺するような振動を抑えることも関係している。このあたりはまた別の機会に。写真はパルサーGTI-R用SR20DETで、同じSR20DETを搭載するシルビアとはかなり異なる。
ファッション目的で軽量フライホイールを入れた結果、異音や振動を口にする人がいるが、もともとフライホイールは制振装置としての役割があり、エンジンやミッションにとって、最適な重量が設定されている。メーカーが熟慮して仕上げた回転部品を変えてしまえば、絶妙なバランスが成り立たなくなり、ドライバーは異音や振動を体感することになる。もっと言うと、異音や振動は車から異常を訴える悲鳴で、それを無視し続けるとどうなるかは、想像に難くないだろう。
→デュアルマスフライホイールの内部構造については、(シルビア用ではないが)製造メーカーの解説動画へ。
クラッチ周辺一式だけでなく、クラッチマスターシリンダーとスレーブシリンダー、レリーズベアリング、レリーズフォーク、クランクシャフトシールを交換。入院期間は一週間に及び、出庫日前日の夜まで作業を行っていた。ここまで変えればさすがに費用は高額になるものの、不安要素はなくなり、当面は安心して走行できる。クラッチペダルの踏み込みに違和感が無くなり、当然異音も収まった。しかも作業前とは比べ物にならないほどの軽さで、脚への負担も少ない。かなり無理な状態で走り回っていたことに、改めて気付いたのだった。