「引き出しから出てきたんだけど、また使いたいから直せる?」と腕時計が持ち込まれることは、今では珍しいことではなくなった。その「引き出しから出てきた」ことについて、まさか自分のところでも発生するとは思っていなかった。
別の部屋の引き出しから、カシオ PROTREKが出てきた。2000年代初頭に購入したような記憶はあるものの、ハッキリしたことは覚えていない。

これがカシオ PROTREK PRT-71/2356、デジアナタイプの腕時計。PROTREKシリーズお得意の気圧、高度、温度の測定が可能。かなり古いモデルで初登場は1990年代末のようだが、詳細は不明。どう考えても、稼働中よりも引き出しの中で眠り続けていた期間のほうが長い。

ケースのあちこちに手垢由来の汚れがぎっしり。ケース内部が無事ならいいが。

バンドも垢まみれで、黄色い物体は全て汚れ。ついでに切れてしまっており、これは交換するしかなさそうだ。

風防は油汚れに覆われて、ベゼルリングも曇っていた。
状況を把握したところで、復旧に向けてさっそく作業開始。バネ棒は錆びて動かなかったため、カッターナイフでバンドを切り離す。

溝という溝に垢が溜まって、カオスな状態になっている。動かないバネ棒は折って外し、いよいよ裏蓋を開ける。

幸い、電池の液漏れは見当たらず、汗と垢由来のサビに覆われていることもなかった。ここからケースを洗浄するためにムーブメントを取り出す作業に入るが、気圧センサー用の貫通孔が圧入されており、無理に分解すると組み立てることができない可能性があった。ムーブメントはケース内に収めたまま、クリーニングを行う。

電池ボックスと回路モジュールは取り外すことができた。垢でドロドロしていたケースをクリーニングし、作業前とは見違えるレベルになった。

アナログ時計用のムーブメントは非常に小さく、オーバーホールを行ってまで使い続けるようなものではないようだ。右側にある大きな穴は気圧センサーがセットされる部分で、大気圧を検知するためにケースの外側に向かって貫通している。

ケースの側面に開けられた穴。ここから大気圧の変化を読み取っているようで、Oリングを介してかなり強く圧入されており、取り外すことはできなかった。

気圧センサーと思われる大きな部品。当時の設計限界からか、回路基板から離れたところにコネクタを介してセットされている。

回路モジュールの裏面。下のゼブラ状になっている部分は、液晶画面との接点。上部の二つの円筒形部品は、恐らく振動センサー。腕を動かすとELライトが光るスイッチの役割。

表面には、時計用の水晶振動子やセンサー制御用と思われるICなど。温度測定用のセンサーは、右下にある箱状のものか。ケースと内部の簡易クリーニングを終えたら、組み立てていく。

回路モジュールと気圧センサーを慎重に組み込む。

気圧センサーの固定と接点の押し付けを行い、同時に電池ボックスになる部品を組み込む。電池がセットされる部分の上側に二本のバネが出ており、ここがケースの開放スイッチとなっている。このバネをなくしてスイッチの役目が失われると、センサーによる測定ができなくなる。

新しい電池をセットする。使用している電池はCR1620で、少なくとも2年以上はもってほしい。

駆動系がプラスチックで構成されているためか、駆動音はザッ…ザッ…と安っぽいものの、アナログ時計の運針が再開した証拠で一安心。裏蓋を開けたままにしているので、液晶画面にはOPEnと警告表示が出ているが、どうやら回路の接続は問題ないようだ。

中蓋とシリコングリスを塗布したパッキンをセットする。この中蓋の裏側にケース開放スイッチの接点があり、押し付けると回路が閉じてOPEn警告が出なくなる。パッキンは異形タイプではなく通常の円形タイプなので、いざとなれば汎用品が使えて維持がしやすい。

最後に磨き上げた裏蓋を閉じて、仕上げの段階へ。内部の金具パーツ、そしてこの裏蓋にもJAPANと打たれており、このときはまだ日本国内での製造が続いていたようだ。旧世代の貴重な日本製デジアナ時計という点が、復旧のきっかけの一つだ。
カシオに限らず、製造系メーカーはコストを削減するために海外製造へ切り替わっていくが、その現地のコストが高くなって別の国へ再移転したり、運搬コストや工程リードタイムの短縮に繋がるとして、国内生産に戻る例がちらほら。

油汚れに覆われていた風防は脱脂し、曇っていたベゼルリングは磨いて光沢を出す。

これで復旧に向けた第一段階はクリア。作業前は垢まみれで触りたくない状態だったが、眺めて楽しめて、センサーによる天候変化を予測するPROTREKならではの使い方が、再びできるようになった。実際に装着するかどうかは別問題なので、純正バンドとバネ棒の手配は後日となる。