ピン折れしたブレス

今回の依頼は「時計のブレスで一コマ追加してほしい」というもの。

体格や装着感に合わせてブレスのコマを抜く、追加する、移動するといった調整は、実は非常に時間の掛かる作業。朝と夜では手首のむくみ具合で装着感が微妙に変わり、コマは12時側に多くするか、6時側に多くするかで、これでさえ一日の腕の疲れ方に違いが出てくる。そういった、とことん調整コース?と聞いてみると「とりあえず、一コマ増やしてくれればOK」とのこと。

コマはこちらで手配することにして、単純に追加するだけなら15分もあればできる…と思っていた。現物のブレスを分解し、追加するコマにピンを打ち込んでいくと、途中で嫌な感触が手に伝わってくる。仕事やプライベート問わず、作業中に食らいたくない感触で、穴の不具合からくる挿入パーツ噛み込み。

こういうときは一旦作業を中止し、ピン穴の様子をもう一度見直すことにする。が、ピンを除去しようともまったくびくともせず、完全に固着した感じ。さらにはピン抜き用工具が次々と壊れてしまい、完全に手詰まりの予感。

ピン折れしたブレスのコマ

ピンが穴の中で折れ込んだらしく、Cリングを通じて穴にガッチリと噛んでしまい、動かなくなった。手持ちのドリル刃は1mmで、これで穴のクリーニングしようにも僅かに刃が細く、対処できず。

同じく機械系趣味を持つS15オーナーに救援を求めてみると「0.1mm刻みでドリル刃あるよー」とのことで、1.1mmのドリル刃を借りることにして、ボール盤を使って穴の中で詰まったピンを除去することになる。

手配したコマと現物のブレスの相性が悪かったのか、穴の中がキレイではなかったのか、考えられる原因はいくつも考えられる。まずは翌日、ボール盤を使ったリカバリ作業次第。

今日は時の記念日、しかも100周年。こんな日に、時計の調整作業に躓いているようでは、まだまだ修行が足りない。

クロック、再稼働

異音の解決依頼で持ち込まれたクロック、三協精機のドラム型時計No.613Zのレポート最終編。異音の発生個所は駆動部、モーターやギアボックス内のグリス切れと判明。僅かに残っている古いグリスを除去し、新鮮なグリスを再度充填していく。

新鮮なグリスを再充填

古いグリスを除去するにしても、相手はプラスチックの歯車。経年による劣化も考えて、ケミカル品による脱脂はしないほうがよさそうと判断、グリスを拭き取るだけに留めておく。プラスチックの歯車が使われている構造から、窒化ホウ素ベースの白いグリスを新たに充填した。

仮組して電源を接続してみると、動作音が殆ど聞こえない。あれ?壊した?と一瞬ゾクッとしたが、ローターはクルクルと回っており、まずは一安心。新鮮なグリスによる潤滑で、スムーズに回転するようになり、異音が出なくなっている。完全に組み直して再び電源につなぎ、異音なく時を刻み続けることや目覚まし機能を確認する。

無事に修理が完了し、あとは返却日を待つのみ。ご依頼ありがとうございました。

クロックの分解調査

異音を解決してほしいということで預かっているクロック、三協精機のドラム型時計No.613Zの分解をさっそく行った。

裏蓋を開けて動力部を見る

裏蓋を外すと最初に見えたのがコイル。歯車を収めた箱があることから、ここが動力源となるモーターとなる。電源コードから直接コイルに繋がっていることから、商用電源の50Hzと60Hzの周波数をそのまま60秒のカウント用に使っており、水晶振動子やICといった電子回路はなし。電源コード分岐して、緑色と灰色の配線が出ており、こちらはバックライト用の配線。

50Hzモードでの輪列

モジュールを取り出して、50Hzと60Hzの切り替えメカニズムをチェック。写真は50Hzモードでの使用時。所有者と私の居住地は、共に50Hz地域なので、この設定で使う。

60Hzモードでの輪列

西日本の60Hz地域に持って行った場合、60Hzモードに切り替える。レバーを動かすとギアが入れ替わっており、周波数に応じてギア比を変えることで、60秒のカウントを維持していることが分かった。

同期モーターを使っている以上、周波数が上がればモーターの回転数も上がる。そこで60Hzはそのまま、50Hzの場合は増速するギア比に変更することで、周波数に寄らず60秒を機械的に作り出すようになっていた。

変速機構の配列

変速機構、クロックのトランスミッションを上から見るとこのような配列になっていた。上部からの撮影で、50Hz用スパーギアが隠れている。カウンターギアと一体になって回る60Hz用ギアと50Hz用ギアを比べると、50Hz用ギアのほうが大きくなっており、モーターからの回転数を落とし過ぎないようなギア比となっていることが分かる。

50Hz用と60Hz用のスパーギアで回転数を変えながら、秒ドラム用中間ギアに動力が伝わる。ここで秒ドラムを1分間に1回転させながら、分ドラム、時ドラムを回転させていく。

目覚まし機能動作前

次にチェックしたのが目覚まし機能。こちらも機械的な構造をしており、目覚まし時刻になっていない時間帯では、午前午後表示ドラムが目覚まし時刻ドラムから離れている。

振動板は離れている

午前午後表示ドラムと繋がった振動板も、コイルの鉄芯から離れている。鉄芯の一部が汚れていることから、ここが音源らしい。

目覚まし機能動作

目覚ましを設定した時刻になると、午前午後表示ドラムが目覚まし時刻ドラムに接触する。

コイルに振動板が接触

するとコイルの鉄心に振動板が接触し、これがビーという大きな音を立てる。ここでも商用電源による音になるため、50Hzと60Hzで微妙に音色が違うことが予想される。

モーターを分解

異音の発生源はモーターだろうと予想して、モーター部分を分解していく。ギアボックスのフタを開けると、ローターが顔を出した。

ローター内部を確認

コイル鉄心ユニットとギアボックスを分離。これで歯車類のチェックが可能になった。異音の原因はローターのグリス切れ。グリスが失われていることで、鉄心の磁力でローターが必要以上に振動を起こし、ゴウンゴウンゴウン…とうなり音を上げていたようだ。グリス切れとなれば、残っている古いグリスを一旦落とし、再度注油していくことになる。原因が見えてきたところで、今日は時間切れ。

クロックにも着手

「時計のチェックをお願いしたいんです」と、時計のメンテナンス依頼がやってきた。続く言葉が「クロックなんですが、いけますか?」だった。なんと分かっていらっしゃる…。

日本語では時計と一言で済ませてしまうところだが、腕時計や懐中時計といった携帯する時計であればウォッチ、掛け時計や目覚まし時計といった置いておく時計をクロックと呼び、厳密には別物となる。よってサポートを申し込むとき、クロックとウォッチを使い分けることができれば、相手もすぐに分かる。

クロックと言われたので、置時計?とりあえず見ないと判断できないよ?と伝え、実際に持ち込まれたのがこちらのモデル。

三協精機製クロックNo.613Z

三協精機のドラム型時計No.613Zだ。見た目からして非常にレトロで、ある一定の年齢層からは「こんな時計があった」と反応しそうなデザイン。1970年代あたりの製造と思われ、それだけの年数が経過しているにも関わらず、外装に変色や痛みが殆どない。

製造した三協精機は、現在では日本電産サンキョーとしてNIDECの子会社となっており、モーターをはじめとする機器類の製造事業を行っている。

状況は「異音がする」とのことで、その場でチェックしてみると、時々内部からゴウンゴウンゴウン…と軸がブレている、もしくは油切れのような、スムーズな回転ができないような音が確かに鳴る。しかも水平(使う状態)にしていると鳴り、傾けたりすると音が消えるので、ギアの当たり不良も想定される。まずは24時間以上、連続して動作させてみて、時計としての精度や音の出方を探ることからスタート。

アラームスイッチと時間調整ダイヤル

写真左側、本体では背面にアラームのスイッチがあって、目覚まし時計として使うことができる。設定時刻になると、ビー…とブザー音が鳴り、これがかなりの音。朝っぱらから聞かされれば不愉快になる。

写真右側、側面には黒いダイヤルがあって、外周部がブザーが鳴る時刻を調整するダイヤル。内周部は時刻調整用のダイヤルとなる。

周波数選択スイッチ

底部には50Hzと60Hzを切り替えるスイッチがあって、居住地の電源周波数に合わせてセットする。ここ関東は50Hzなので、50HzモードでOK。駆動用モーターは電源周波数をベースにした同期モーターとなっている。

日本は50Hzと60Hzが独立して存在し、それらを周波数変換所で接続している唯一の国。蛍光灯を通じてみると、60Hzに比べて50Hzのほうがちらつきが見えて、同じワット数でも若干暗く感じるようなことが起きる。

時間が変わる様子その1

アナログなドラム式の時計ということで、時刻が変わっていく様子は、EK9シビックRで散々見てきたものと全く同じ。撮影時刻は午後7時10分50秒を過ぎたところ。右側に50と出ているのが秒用のドラム。これが上に向かって回転する。

時間が変わる様子その2

秒用ドラムが0に近づくと、分用ドラムが下に向かって回り始める。

時間が変わる様子その3

回転が終わって、11分に切り替わった直後の状態。1分毎にこの動作が行われ、60分毎に1時間用ドラムが一回転する。12時間時計なので、左側にあるドラムで午前と午後を表示する。

レトロな雰囲気が逆に良くて、私も一台欲しくなってしまった。買うにしても、まずはこの時計の処置を終えてからになるが。

動かないソーラー腕時計

今回持ち込まれた腕時計は、会社の創立記念で配布されたモデル、カシオOCEANUS OCW-600/4329だ。「なんか使うとしたら動いてなくてー」とのことで、確か電波時計のソーラー充電仕様だったような…?と微かに記憶がある。

カシオOCEANUS OCW-600/4329

現物を見て、ああやっぱり…と納得。針が0時0分0秒になり、日付も1日になっていることから、内部バッテリー切れによる停止モードに切り替わっている。

普段使っている状態では、文字板に組み込まれている太陽電池で発電し、内部バッテリーに充電しながら運針する。衣服(長袖)の影等の光が遮られるところ、天候不良や夜間といった暗くて発電できない環境では、内部バッテリーによる運針を続ける。

室内の明かりレベルでも発電できるが、ケースや引き出しに片付けて発電できない状態が長く続くと、内部バッテリーを使い切ってしまい、写真のようにゼロ表示に切り替わる。久しぶりに使おうとすると、発電と充電が間に合わず、止まった状態の時計を目にして「止まっている」「壊れたのかも」と、時計店やメーカーにサポート依頼で持ち込まれる…という流れは、よくあるそうだ。

実際、所有者も故障と思って、何度かメーカーに送ったことがあるとのこと。

保管状況を聞くと「ケース内に片付けているんだけど」と、ビンゴ。原因はそこにあることから、ときどき使うか、窓際でもいいので一日掛けて日光に当ててあげると自動的に充電され、内部バッテリー切れによる止まりはなくなることをアドバイス。

朝日に当てながら二時間ほど放置し、運針再開を確認。

外装の清掃と軽研磨

運針するようになったら、針の基準位置合わせ、ホームタイムを東京に再設定。これらの操作ができることを確認し、標準電波を受信させて時刻を合わせる。これらのセッティングが済んだら、垢で汚れていたケース外部は清掃して、ツヤを出す。特にラグ周辺は汚れが溜まりやすいので、徹底的に洗浄する。

組み立て待ち

ブレスやバネ棒もしっかり洗浄し、組み立て待ち。フル充電までは、晴れた日の野外で21時間、晴れた日の窓際で77時間という長い充電時間が必要。連休中は太陽光による充電を継続することになる。

Cal.2035を分解する

チープカシオに並ぶ安価で高精度な時計として、シチズンQ&Qシリーズがある。ホームセンターやヨドバシカメラ等で、1,000円程度で売られていることが多い。

シチズンQ&Q VP46-854

こんな時計。

仕事は分刻みのスケジュールなのに、腕時計を忘れて出勤することがあり、代用としてロッカーの中にシチズンQ&Qを放り込んでいる。バンドや風防の損傷で、別のシチズンQ&Qとニコイチにして修復、残ったパーツで一旦元に戻したもの。

ミヨタCal.2035

ムーブメントはシチズン/ミヨタの名機Cal.2035。販売されている安価な時計で「日本製ムーブメント」とパッケージに書かれていれば、このムーブメントが使われていることが多い。シチズンだけでなくカシオも使っていて、チープカシオのアナログ時計がCal.2035だったりする。

時計を販売している企業に幅広く供給されているムーブメントなので、例えばDIESELの腕時計でも内部はシチズン/ミヨタを使っている。

Cal.2035系は、バージョン違いで計3機種設定されている。標準となるCal.2035があり、Cal.Super2035では電池寿命が4年に延びて若干精度が良くなり(±20秒/月→±15秒/月)、Cal.2035Gになると電池押さえや輪列受けが金色になって、いくらかゴージャスになる。GはGoldの頭文字か。

今回分解したCal.2035は、電池押さえが金色となっているが、輪列受けは銀。よってGがつかない通常のCal.2035と判断した。

文字板を外したところ

ケースからムーブメントを取り出し、針や文字板を外したところ。日車(カレンダーディスク)がなく、目立つのはコイルと時針用のツツ車くらいでシンプル。文字板はムーブメントに刺さっているだけで、引っ張るとポロッと取れてしまった。

電池押さえを外す

ムーブメントがあまりにも小さく、ホルダーに固定することができない。先ほど外した文字板を再装着して、これでホルダーに固定することができる。

次に外したのが、電極を兼ねた金色の電池押さえ。ムーブメントの左側を占める黒い部分が、クォーツやICが接続された回路ブロック。

回路ブロック

回路ブロックはこのような部品。先日分解したクォーツ式のスウォッチでは、ICがDIPタイプだった。こちらは基板に直接貼り付けられたパッケージで、左側に1mm四方のひし形状の部品がそのIC。直尺に沿っている筒がクォーツ。モジュール化され、小型軽量を突き詰めていく部品形状は、日本の得意パターン。

竜頭は脱着可能

回路ブロックを外すとムーブメントはずいぶんスッキリする。ネジを使うことなく、固定ピンを通じて部品を重ね合わせて、固定力を生み出す構造になっている。竜頭にもOリングが装着されており、必要最低限の防水は効いている。

輪列受けを外す

輪列受けを外して、各歯車を見る。装飾的な研磨やスポーク仕様といったものは全くない、シンプルな歯車だ。

ドライブトレイン

各歯車を順番に外していき、並べたところ。メーカーのWebサイトではパーツリストが公開されていることから、その気になれば部品単体で買い直して修理することも不可能ではない…かも?ムーブメントの性格上、オーバーホールするくらいなら、機械一式で買い替えたほうが早いが。

ステップモーター部

地板に残るのは、ステップモーター部。ムーブメント全体のサイズに対し、コイルブロックはけっこう大きい。ローター先端の歯車も金属なので、DIESELの腕時計など大きな針を動かせる要素になってくると思われる。

コイルブロックとローター

ステップモーターを構成するコイルブロック、ステーター、ローター、ネジ。安価なムーブメントだからといって、ケチって作られている様子はない。コイルの導線が解けないように接着剤で封じられており、大きな針を動かすことを考えてローターの磁石は強力なものを使っているようだ。ローターの磁力は、ステーター(下の部品)をこれ以上近づけるとくっついてしまうほどで、見た目以上に強い。

地板部

残ったのは電池ボックスとなるプラスチックのシャーシと地板、日ノ裏車。地板は各歯車の軸受けとなることから、製造時の歪みやバリといったストレスを除去するために、研磨加工が施されている。

中腰で分解と撮影を続けていたために、背中が痛くなってきた。明るさや影の具合を気にする余裕がなくなっており、見た目が悪い写真に…。

Cal.2035の全パーツ

Cal.2035を構成する部品たちの集合写真。ネジの数は必要最低限で、一本のネジで複数の部品をまとめて固定する構造になっている。薄くて細い部品でも加工痕や縁の荒れは全くなく、高精度で切れ味のいい製造装置を使っている様子まで分かる。

まず別工程で各部品を製造しておく。それら各部品を最終ラインに集め、コンベアの上で次々と重ね合わせることで大量生産する。私のような素人がムーブメントを一旦分解し、撮影のために組み立てて、再びバラしても時間はさほど掛かっていない。これが機械生産だとどうなるか。1980年代中盤から製造が始まったCal.2035の累計製造数は30億個を超えたそうで、業界基準(デファクトスタンダード)になっている理由も見えてくる。

安価な時計だからといって精度が悪いわけではなく、壊れやすいこともない。知れば知るほど、味わい深くなるスルメのようなムーブメント。

クオーツ式のスウォッチを分解する

スウォッチは、安価で高性能な日本製腕時計に対抗するために生み出されたブランド。スイス製時計=高価という常識を覆すため、ケースの素材から製造方法まで徹底的に低コスト化を行い、さらには二度と同じデザインを出さないというファッションな側面を含めた一種の限定販売戦略により、成功を収めた…というのがよくある解説。

時計を構成するムーブメントについては、完全非分解構造で、いわば使い捨て。オーバーホールを行って使い続けるようなモノではなく、だから低コスト化が実現できたとも。セイコーの38クォーツと同じく、電池ボックス部分にフタがあり、そこから電池交換は可能。つまり、オーバーホールができないからといって短命ではなく、ムーブメントが不調になるまでは使い続けることができる。

機械いじり趣味を持つ以上は、「低コストを実現した精密機械」で「非分解構造」となれば、逆に分解して中身を見てやろうと動き出すわけで。

スウォッチ クオーツモデル

その生贄になったのが、スウォッチのクオーツモデル。だいぶ古いモデルのようで、製造時期やシリーズ等は一切不明。電池を交換しても動かなかったことから、分解調査のサンプルとして使うことになった。

裏は電池蓋のみ

ずっしりとしたステンレスケースの裏側には、電池ボックスの蓋がある。余計な工具は使わず、適当な硬貨を当てて回せば蓋が開くほど、簡単な構造。

破壊して分離

コジアケとハンマーを使い、ガッチリと噛み合っていたベゼルとケースを分離する。続いて、単純に圧入されているだけの竜頭を引っ張って外すことで、ケースからASSY化されたムーブメントを取り出すことができる。竜頭脱着用の部品がないことが分かり、低コスト化の一端をさっそく見ることになった。

風防を割って外す

風防はムーブメントのシャーシに接着されており、割って外す。薄くてペラペラな板状ではなく、しっかりとしたドーム型風防で、デザイン性を優先した形状。風防の上から強い圧力を掛けると、バシッという音と共にヒビが入った。

ETA製ムーブメント

ムーブメントはETA製。スイス製造、No(0)JEWELSという表記も見える。

文字板を外す

今度は文字板を外す。これまた接着されており、シャーシから剥がすようにして外す。ちなみに、ここまでネジは一本も出てきていない。

日車周辺

カレンダーディスクこと、日車周辺。左側にある大きな銀色の歯車は、日回し車。これでカレンダーディスクを一日毎に回す。右側にある小さな歯車たちは、日車早送り車や日回し中間車など。竜頭を引っ張って、カレンダーを調整するときに動作する。中央にあるツツ車は、時針用。12時間で一周する。

日車構成部品を外す

日の裏押さえを外して、日車や日回し車を外す。するとシャーシ内部に埋め込まれた制御回路、輪列が姿を現す。

回路や輪列が見えてくる

ムーブメント拡大。右下にあるのがICと水晶振動子。まず目を引いたのがIC。今の時代に、DIPなICを使うとは、これも安価に抑える工夫だろうか。制御回路用の金属板は、シャーシに直接装着されていることが分かる。シャーシそのものを回路の構成部品とすることで、必要部品数削減と製造に要する時間を減らしているようだ。

上側を大きく占めるのが、針を動かす輪列群。駆動力を生み出すコイル/ステーターは、シャーシのピンにセットされているだけで、取れないように溶着されている。プラスチックのピンを溶かすことで部品固定し、ネジを一切使わないことで製造コストをなくし、締め付け用の機械も不要になる。ここまでケチるか…?というくらい、部品数が少ない。

写真上では分かりにくいが、竜頭の巻き真(軸)には、一回差したら抜けなくなるような形状とバネが組み込まれていた。オーバーホールは行わず、竜頭の脱着も考えられていないためにできる、割り切った構造をしていた。

駆動ユニットと輪列

駆動ユニットと輪列をシャーシから外す。各歯車の並びは一般的なクオーツ時計と全く変わらず、見慣れた配置となっている。歯車のデザインが、セイコー等の日本製のものとは異なり、The Swatch Groupの製品であることが感じ取れる形状。

制御回路はケースと一体化

シャーシと一体化している制御回路。こちらもシャーシのプラスチックのピンに金属板をセットし、ピンを溶かすことで固定している構造。シャーシに部品を組み込み、ヒーターで溶かせば固定と回路が成立するので、短時間で大量に製造することが可能になる。

ローターの歯車は?

続いて、針を動かす動力源を見る。ローターの歯車が全く見えないので、さては老眼か?と一瞬ドキッとしたが、ライトで照らしながらルーペでよく見ると、二本の角のようにピンが立っているだけ。これこそが歯車であり、噛み合う相手を回転させる構造ならなんでもいいらしい。高価になりがちな金属のピニオンギアを作るくらいなら、二本のピンを立てたプラスチック製のローターで安く作るほうが早い。プラスチックなら、射出成形で次々と製造することができる。

必要最低限の噛み合い

分解時にローターのピンを曲げてしまったので、正常な噛み合いではないが、回す相手は秒針用の四番車。華奢なピンながらも少しずつ回していくことで、重たい日車を回すだけのトルクを積み重ねることができるようだ。

以上、クオーツ式のスウォッチを分解し終えた。低コスト化のためにネジを使わず、溶着や接着で製造されていることから、確かにオーバーホールは不可能。分解したスウォッチは、不燃ごみとして処分することになる。

ムーブメントの製造企業ETAはThe Swatch Groupの系列会社であり、スウォッチはThe Swatch Groupが持つブランドの一つとして販売され、分業化された系列会社内でまとまっている。日本の安価なムーブメント(Cal.Y121EやCal.2035等)とは違った、数々の低コスト化手段がとても興味深い時計だった。

セイコーダイバーのメンテナンスその4 仕上げへ

二日間の休養を経てセイコーダイバーズウォッチのメンテナンス作業、再スタート。

ガラスの組み込み

キズのないガラスをケースに組み込む。各部のOリングにシリコングリスを塗布して、しっかり締め込んだら、簡易的な防水検査を行う。

日本におけるダイバーズウォッチは、JIS B 7023:1993で規定されている、ただ、このダイバーズウォッチは日本産業規格(JIS)として制定された1993年以前のモデルなので、規定に沿える要求事項に該当しない部分ばかり。例えば、逆回転防止ベゼルは無い、第1種耐磁時計に設定されていない等。

ただし、要求事項には簡易的な防水検査に使えるテスト項目があり、これをベースに『雨、洗顔、手洗いといった日常生活で水が時計に付着する場面で、最低限の防水性能を維持』できるか、自己責任でチェックしてみる。

JIS B 7023:1993の要求事項、6.4.5に耐熱衝撃試験が制定されており、潜水時計を次の順序で水深30cm±2cmの水中に浸す試験がある。

a)40±2℃の水中に10分間
b)5±2℃の水中に10分間
c)40±2℃の水中に10分間

時計を湯から水へ移す際は、1分以内に行う。また、このテスト後に6.4.9結露試験を行うことが要求されている。

a)時計を40℃〜45℃の間に設定した加熱板に載せ,時計のガラスが加熱板とほぼ同温度に達するまで置く。加熱時間は、個々の時計によって異なる。その間、ガラス内面への水滴又は曇りの発生の有無を目視によって観察する。

b)加熱板上の防水時計のガラスの上に 18℃〜25℃の水滴、ぬれ布又はぬれパッドを置く。

c)約1分後乾いた布でガラスを拭く。ガラス内部の表面に結露ができた時計は、防水不良とする。

注記1 時計が湿気で飽和状態にある環境に置かれた場合、結露試験では、防水性の欠陥を検出できない可能性がある。

注記2 厚さが2mm以上のガラスでは、水滴による結露試験は信頼性が低い。したがって、ぬれ布又はぬれパッドを用いるのが望ましい。

注記3 曇りが1分以内に消える場合には、防水不良ではないとみなす。

このような事項。つまり、水や湯に漬けて低温と高温のストレスを与えたあと、時計全体を加熱。もし浸水があれば、ガラス面を冷やせば曇りが発生し、防水不良と判断することができる。このダイバーズウォッチはガラスが厚いので、水滴の代わりにぬれたタオルを使う。加熱板なんて持っていないので、ドライヤーで温めることにする。

バケツに湯を溜めて、洗面所を水の槽にして、それぞれに時計を沈めて10分放置。そしてドライヤーで時計全体を温め、ぬれタオルでガラスを冷やしてみて、ガラス内側に曇りがないか。

…検査良好!ケースを開けて、内部に水滴や曇った痕跡がないか入念にチェックし、乾燥した状態を保っていることを確認。39年前の時計が、素人のガラス交換に耐えて、普段の生活における最低限の防水性は確保されていることが分かった。現実的にはメーカーや時計修理業者からは「防水性はないので、水中では絶対に使うな」と言われているところなので、引き続き非防水時計として使うことになるが。

リフレッシュした回転ベゼル

リフレッシュした回転ベゼルをケースに装着する。

セイコー純正電池をセット

ムーブメントと固定リングをケースに収め、セイコー純正電池をセットする。今日から3年後の2023年4月が規定寿命、これまでの動作状況から4年目あたりまでは使えるだろうが、再び妙に遅れるような挙動になるかもしれない。次回はオーバーホールを視野に入れておきたい。

新品バンドを装着して完成

新しいバンドを取り付けて、腕に装着できる状態に戻った。続いて、竜頭を動かしてみて、日付や時刻がこれまで同様に調整できることを確認。

セイコーの時計は午前10時8分42秒(月曜日6日)が最も美しく見える時間、表情に設定されている。その瞬間を撮影し終えて、メンテナンス作業は完了となった。

外装がボロボロだった時計が元に戻った。子供のころの記憶を振り返ってみても、ここまでキレイなイメージはない。さて、印象が良くなった状態で返却されることになる親父、どういう反応を示すことになるだろうか。

セイコーダイバーのメンテナンスその3 風防の交換

セイコーダイバーズウォッチのメンテナンス作業、引き続き継続中。

回転ベゼルを交換し、鮮やかな赤と青のペプシカラーに戻ったら、今度は風防(ガラス)の傷み具合が目立つようになってしまった…というのが前回まで。

百聞は一見に如かずということで、風防の傷み具合はこちら。

傷だらけの風防

39年分の線キズだらけ。デジカメの写真でもけっこうな状態不良と分かるが、肉眼上ではより悪くなる。撮影できなかった細かい線キズ、打痕、コーティング層の剥がれのような変色が無数にあり、これで文字板の視認性が非常に悪くなっている。

交換、ワンオフ作成、研磨のどれかを考えていたが、前者、交換となった。うまい具合に純正品が入手できて、風防の入れ替え作業を行う。

セイコー純正風防

交換用のセイコー純正風防。傷だらけになっていた風防に比べ、ガラス特有の透明感のある美しさが戻り、時計全体の印象が大きく変わるだろう。

ケースを構成する部品

ガラスを交換するため、構成部品それぞれに分解。ここまでバラしたならば、ステンレスの塊であるケース本体や裏蓋は入念に洗浄して、手垢や汗をしっかり落としておく。

乾燥と軽研磨を経て、風防の再装着と簡易的な防水検査となる。完成まであと少し。

セイコーダイバーのメンテナンスその2 回転ベゼルに着手

セイコー ダイバーズウォッチのメンテナンスの続き。

薄い赤と傷だらけの青で、ペプシカラーに程遠い状態になっている回転ベゼルから対処。製造から39年が経過していれば、傷と脱色は仕方がないこと。購入当時の鮮やかさへ、少しでも戻れるように…。

回転ベゼルを交換

回転ベゼルそのものを交換する。いつか自前修理があるだろうと踏んで、少しずつ補修用部品を集めていた。その予想は見事に的中して、部品を入れ替えていく。交換したベゼルとケースを仮合わせしてみると、これだけでも雰囲気がまるで違うことを実感。

ベゼルがキレイになったことで、今度は風防(ガラス)の傷が逆に目立つようになった。見た目だけでなく視認性も関わる部分なので、交換、ワンオフ作成、研磨といろいろな手段が思い浮かぶ。次なる課題はここか。

Cal.7548の電池押さえとコイル

Cal.7548は電池交換時のミスが目立つムーブメントに感じる。電池押さえ用の板バネを外そうとして、コイル横のネジに触れてしまい、ドライバーを滑らせてコイルを断線してしまう事故がよく見つかる。正解は板バネを固定するネジは一本だけ緩め、このコイル横のネジは緩めない。

これまではプロの時計師によるメンテナンスが続いており、ネジ一つにしても極めて慎重に扱われていたことが窺える。むやみにいじりたくはない、良い状態を保っている。今回の電池交換を経て、3年から4年が経過したタイミングでのオーバーホールは、自分でやるか、それとも再びプロに依頼するか。