チープカシオに並ぶ安価で高精度な時計として、シチズンQ&Qシリーズがある。ホームセンターやヨドバシカメラ等で、1,000円程度で売られていることが多い。

こんな時計。
仕事は分刻みのスケジュールなのに、腕時計を忘れて出勤することがあり、代用としてロッカーの中にシチズンQ&Qを放り込んでいる。バンドや風防の損傷で、別のシチズンQ&Qとニコイチにして修復、残ったパーツで一旦元に戻したもの。

ムーブメントはシチズン/ミヨタの名機Cal.2035。販売されている安価な時計で「日本製ムーブメント」とパッケージに書かれていれば、このムーブメントが使われていることが多い。シチズンだけでなくカシオも使っていて、チープカシオのアナログ時計がCal.2035だったりする。
時計を販売している企業に幅広く供給されているムーブメントなので、例えばDIESELの腕時計でも内部はシチズン/ミヨタを使っている。
Cal.2035系は、バージョン違いで計3機種設定されている。標準となるCal.2035があり、Cal.Super2035では電池寿命が4年に延びて若干精度が良くなり(±20秒/月→±15秒/月)、Cal.2035Gになると電池押さえや輪列受けが金色になって、いくらかゴージャスになる。GはGoldの頭文字か。
今回分解したCal.2035は、電池押さえが金色となっているが、輪列受けは銀。よってGがつかない通常のCal.2035と判断した。

ケースからムーブメントを取り出し、針や文字板を外したところ。日車(カレンダーディスク)がなく、目立つのはコイルと時針用のツツ車くらいでシンプル。文字板はムーブメントに刺さっているだけで、引っ張るとポロッと取れてしまった。

ムーブメントがあまりにも小さく、ホルダーに固定することができない。先ほど外した文字板を再装着して、これでホルダーに固定することができる。
次に外したのが、電極を兼ねた金色の電池押さえ。ムーブメントの左側を占める黒い部分が、クォーツやICが接続された回路ブロック。

回路ブロックはこのような部品。先日分解したクォーツ式のスウォッチでは、ICがDIPタイプだった。こちらは基板に直接貼り付けられたパッケージで、左側に1mm四方のひし形状の部品がそのIC。直尺に沿っている筒がクォーツ。モジュール化され、小型軽量を突き詰めていく部品形状は、日本の得意パターン。

回路ブロックを外すとムーブメントはずいぶんスッキリする。ネジを使うことなく、固定ピンを通じて部品を重ね合わせて、固定力を生み出す構造になっている。竜頭にもOリングが装着されており、必要最低限の防水は効いている。

輪列受けを外して、各歯車を見る。装飾的な研磨やスポーク仕様といったものは全くない、シンプルな歯車だ。

各歯車を順番に外していき、並べたところ。メーカーのWebサイトではパーツリストが公開されていることから、その気になれば部品単体で買い直して修理することも不可能ではない…かも?ムーブメントの性格上、オーバーホールするくらいなら、機械一式で買い替えたほうが早いが。

地板に残るのは、ステップモーター部。ムーブメント全体のサイズに対し、コイルブロックはけっこう大きい。ローター先端の歯車も金属なので、DIESELの腕時計など大きな針を動かせる要素になってくると思われる。

ステップモーターを構成するコイルブロック、ステーター、ローター、ネジ。安価なムーブメントだからといって、ケチって作られている様子はない。コイルの導線が解けないように接着剤で封じられており、大きな針を動かすことを考えてローターの磁石は強力なものを使っているようだ。ローターの磁力は、ステーター(下の部品)をこれ以上近づけるとくっついてしまうほどで、見た目以上に強い。

残ったのは電池ボックスとなるプラスチックのシャーシと地板、日ノ裏車。地板は各歯車の軸受けとなることから、製造時の歪みやバリといったストレスを除去するために、研磨加工が施されている。
中腰で分解と撮影を続けていたために、背中が痛くなってきた。明るさや影の具合を気にする余裕がなくなっており、見た目が悪い写真に…。

Cal.2035を構成する部品たちの集合写真。ネジの数は必要最低限で、一本のネジで複数の部品をまとめて固定する構造になっている。薄くて細い部品でも加工痕や縁の荒れは全くなく、高精度で切れ味のいい製造装置を使っている様子まで分かる。
まず別工程で各部品を製造しておく。それら各部品を最終ラインに集め、コンベアの上で次々と重ね合わせることで大量生産する。私のような素人がムーブメントを一旦分解し、撮影のために組み立てて、再びバラしても時間はさほど掛かっていない。これが機械生産だとどうなるか。1980年代中盤から製造が始まったCal.2035の累計製造数は30億個を超えたそうで、業界基準(デファクトスタンダード)になっている理由も見えてくる。
安価な時計だからといって精度が悪いわけではなく、壊れやすいこともない。知れば知るほど、味わい深くなるスルメのようなムーブメント。