恐怖の針修正

三本目の時計は、シチズンアテッサの旧モデル。ケースはチタン合金で、その触り心地はEK9シビックRのシフトノブと一緒。独特の感触と肌に触れたときの違和感の少なさは、ステンレススチールのケースやブレスレットよりも勝る。

アテッサの長針と短針に、肉眼で見えるほどのゴミか傷か、それともカビか、表面に異常があった。この異常が気になるで、なんとかできないか?というのが依頼内容。

長針と短針の異常

赤い矢印の先にあるのが、異常部分。ケース内に収めた状態ではマクロ撮影でも写りにくい。裏蓋を開けて、ムーブメントを取り出して再チェックする。

異変を強調してみる

異常部分を強調してみると、ようやく見えてきた。どうも傷らしい。

短針修正完了

短針の異常の正体は汚れ。簡単に除去できて修正完了。

長針も修正完了

長針の傷は、一時間ほど掛けて修正していく。修正前はそのままでもハッキリ見えていたが、加工後は強い光を当てて見えてくる=着用状態ではまず見えないくらいまでは追い詰めることはできたが…。

針の修正は失敗の恐怖が常にあり、強い緊張感からのストレスに勝てなかった。ルーペを通して見ているため、だんだん目が疲れてしまい、針の状態が見えにくくなったのも敗因の一つ。細かくて薄い部品をいじる難しさは、現在練習継続中のテンプのスプリング修正と近いものがある。

ムーブメントを眺める

ケースにムーブメントを戻し、蓋を閉じる前にブロアでホコリをしっかりと飛ばして撮影。無駄を削ぎ落としたかのような、シチズンの六角形型ムーブメント。できるだけコンパクトに仕上げていく設計からの第一印象は、MIYOTA Cal.2035に近いものがある。

シチズン アテッサ

アテッサの文字板。シチズンらしい細かいところを「見やすくする」配慮があって、例えばローマ数字の向き。V(5)、VI(6)、VII(7)、VIII(8)の数字が時計の外周側に向いており、装着したときや飾ったときなどに数字として見やすくなっている。全ての数字が中心側に向いているセイコーとは最も異なる部分。

シチズン、セイコー共々、4はIIIIで表現されている点では共通となる。なぜローマ数字のIVではなく、IIIIで表現しているのか。様々な説がありながらIIIIを使わないとダメというルールはなく、IVで表現している時計もあって、これが時計の面白さの一つ。

ここから発展して、さまざまなイラストレーターが描く、ナイフを投げて時間を止める瀟洒なメイド長について。一緒に描かれる懐中時計の文字板をよく見ると、ローマ数字はIVのときがあればIIIIとなっていることがあり、この違いでも時計の印象が大きく変わるもの。

SWかWか

今日はカシオ データバンク・ツインセプトのチェックだ。このモデルについては「こんな感じの時計がある」という旨で見せてもらうために同梱されたもので、特に点検の依頼は入っていない。ただ「電池の寿命が近いのか、液晶が薄い」と気になる一言もあった。

外観を見直したところでは、20年以上前の時計にも関わらず、キレイな状態を保っており、ケースやバンドの加水分解も起きていない。

裏蓋の汚れ

裏蓋には手首の垢由来の汚れが溜まっており、これが錆の原因になるのでクリーニング決定。まずは裏蓋をケースから外す。

裏蓋を開けたところ

ムーブメントを見る。データバンク・ツインセプトはデジアナモデルで、アナログ時計用のメカが中央にセットされている。右側にある灰色の円筒形の物体は、ELバックライト用のコイル。1.55Vの電源から、バックライトの発光に必要な電圧まで昇圧する。

ケースからムーブメントを取り出そうと思ったが、ムーブメントとデジタル時計部の接続方法が全く分からず、冒険はしないほうがいいということで、ここで折り返し。

さて「液晶が薄い」とは電池切れが近いのだろうか。念のため電池をチェックする。

使ってはならないSR927SW

ん?誰だお前!!指定品とは異なる電池がセットされていて、二つのSR927SWがあった。一般流通品よりも液漏れしにくいという、セイコー純正の電池(高級品)を使っている点は素晴らしいが、なぜ指定外の電池を使っていたのか。そして気になる部分がもう一つ。

なぜかネジ一本が異なる

裏蓋の固定ネジが、一本だけ明らかに異なるものがセットされていた。これはどういうこっちゃ?

一般人がセイコー純正電池を買うとなると非常に高価で、販売ルートも限られてくることから、過去のメンテナンスは街の時計屋だったのだろうか。間違ったネジを使って蓋を閉じられている点も気になるところで、いろいろと想像が膨らむ部分。

同サイズの電池でSとSWの二種類がある

SR927系だけでなく時計用ボタン電池には、SWとWの二種類が存在する。SWはアナログ時計向きで、低負荷環境を想定。対し、Wは多機能なデジタル時計向きで、時計以外の機能で大電流を要求されるような、高負荷環境を想定している。SWとWを入れ替えると、誤作動や電池寿命が短くなるデメリットがあり、基本的にはムーブメント指定の電池を使うのがベスト。

写真のように、Maxell製のボタン電池のパッケージには、SWならアナログ時計のイラスト、Wならデジタル時計のイラストが描かれているので、用途がイメージしやすくなっている。

正しい電池をセットする

指定電池のSR927Wをセットしたところ。「液晶が薄い」原因は、電池の寿命だけでなく、SW仕様のせいで大電流に耐えられなくなっていた可能性も考えられる。

デジタル時計部はともかく、アナログ時計部の時刻合わせ方法は、同梱されていた取扱説明書を参照する。

説明書に記載された死語

説明書を読んでいると、ポケベルの文字を発見。50件分の名前、電話マークを設定した電話番号をセーブすることができるそうだ。先のデータバンク・テレメモ30と比べると、カタカナ文字の入力が可能になり、セーブ数が30から50にアップ。

マークが浮かび上がる

時計を傾けて液晶画面を見ると、固定電話、FAX、ポケベル、携帯電話のマークが浮かび上がった。風防、デジタル時計用の液晶画面、その下にアナログ時計があるという、サンドイッチ構造。分厚いデザインになっていない構造が驚異的。

クリーニング後の裏蓋

裏蓋の汚れは除去完了。ケースとバンドの溝もクリーニングし、すっかりキレイになった。

カシオ データバンク・ツインセプト ABX-69

仕上がったカシオ データバンク・ツインセプト ABX-69を眺める。今でこそスマートウォッチとして、スマホとリンクする腕時計が広がっているところだが、カシオは20年以上前の時点で、今に通ずる機能の元祖を組み込んだ腕時計を作り上げていたことになる。

電池の除去で防御!

昨日記事にしたDIESELの腕時計、DZ-1208の電池交換依頼より数日前、EK9で快適生活(現BRZで快適生活)の管理者様から、時計の点検やムーブメント保護対策の依頼があった。

その時計とは、2017年10末の「時計を放置すると怖いよ、というお話」という記事でアップされていた四本の時計たち。カシオ データバンク・テレメモ30、データバンク・ツインセプト、シチズンアテッサ、セイコーシャリオ。それぞれに依頼があって、それに沿ったカタチで作業を行うことになった。まずは一本目、データバンク・テレメモ30の電池除去=ムーブメントの保護となる。

BRZで快適生活様の記事に書いてあったとおり、カシオ データバンク・テレメモ30は加水分解によりバンド、ケース共に崩壊してしまっている。これは加水分解という現象で、ケースに使われているウレタン樹脂が、空気中の酸素や湿気、熱により、少しずつ分解されていくもの。基本的にはウレタン樹脂の特性で、止める術はないようだ。時計の世界では古いG-SHOCKで見舞われることが多々あって、私が持っていたモデルも加水分解で崩壊。他では、スニーカーで発生することがあるようだ。

カシオ データバンク テレメモ30 DB-31

バンドは加水分解により完全に崩壊してしまったので、残っているのは本体部分だけ。ケース部分の加水分解も、止まることなく進行中。

加水分解による崩壊その1

ケースを開ける前に、外観のチェック。あちこちに加水分解によるヒビが入っており、割れ目の方向から裏蓋のネジ穴近くまで達していることが予想される。蓋を閉じるときに、ネジ穴に大きな力がかかることから、割れ目が広がる可能性が極めて大きい。

裏蓋を開けたところ

裏蓋を開ける。データバンク・テレメモ30の依頼は、内蔵電池を除去だ。寿命が尽きた電池からの液漏れでムーブメントの基板を損傷させないための、防衛手段となる。

DB-31の使用電池はCR1616

データバンク・テレメモ30の電池は、リチウム電池のCR1616。リチウム電池なら、すぐに液漏れに至ることは無いとされるが、安全を考えれば切れた電池は除去しておくほうが正解。電池ボックス部分にはダメージはなく、キレイな状態が保たれていた。

電池のすぐ下に、マイナスのネジ頭のような部分があって、この正体はトリマコンデンサ。水晶振動子の精度を微調整することができる部分で、製造上の誤差を均一化、使用特性を考慮した再調整が可能となっている。安価なクォーツ時計では装着されていない。

よく見るとマイナスドライバーで回した痕跡が残っており、過去のメンテナンスで動かして精度を微調整していたのかもしれない。

加水分解によるドロドロ

懸念したとおり、ヒビ割れはネジ穴に向かっていた。溝に広がる液状のドロドロは、ウレタン樹脂から染み出てきた油分。ウレタン樹脂に配合された油で弾力性を維持しているが、これが表面に移動してくれば不気味な液体として見えてくる。様々な物質が結合している樹脂から油が失われ、空気中の酸素や湿気で結合が解かれてしまえば、崩壊に至ってしまう。

大きく割れたケース

ネジを締め込むとケースの割れ目が大きく広がってしまい、崩壊を遅らせるためギリギリのところで止めておく。データバンク・テレメモ30のムーブメント保護対策は、これでOK。

DB-31の取扱説明書

参考資料として同封させていただいた、取扱説明書。郵便番号が三桁、東京のサービスセンターの電話番号についても、市内局番が三桁(03-XXX-YYYY)という、歴史を感じさせるものだった。

万一、誤ったボタン操作をしても製品に障害を与えることは一切無い…という文章は、初めて扱う時計に対する強い安心感を与えてくれる。扱っていたG-Shockにもこの一文は添えられていて、データバンク・テレメモ30の取扱説明書にも記載があったことから、古くから使われている決め台詞なのかもしれない。

DIESEL、3本目!

DIESELの腕時計の電池交換依頼だ。今回はDZ-1208で、この機種に限れば二度目。それではさっそく、電池交換をスタート。

DIESEL DZ-1208

ステンレスのケースは、拭いて艶を出していく。肌に直接触れる裏蓋とその周辺はしっかりとキレイにしておかないと、蓋を閉じるときに汚れを巻き込んでしまい、防水性が失われる原因になってしまうため慎重に仕上げる。

MIYOTA Cal.2035

ムーブメントは、地球上最強とも言えるMIYOTA Cal.2035。シチズングループの製品で日本製。したがって使用電池はSR626SWとなり、精度は月差±20秒、電池寿命は3年という、扱いやすいスペック。

ケース内のブロア清掃、文字板のゴミ残留が無いことを再点検し、裏蓋を閉じて時間合わせ。翌朝まで運針させて、日付変更が正常に行われるかチェックしてからの返却となる。ご依頼ありがとうございました。

JAPAN MOVT

気がついたら止まっていたということで、サポート依頼で持ち込まれたのは、Paul Smithのクロノグラフ腕時計。電池切れで止まっているのか、故障で止まっているのかは、現在のところ不明。

Paul Smith 0610

カジュアルウォッチの厄介なところは、見た目はブランドモノだが、中身は汎用ムーブメントで組まれていることが多い点。汎用ムーブメントは分解修理を前提としていないので、破損による故障ならばムーブメント一式を取り替えることになり、修理費は別枠となってしまう。

預かった時点で、まずは全体像を見て時計の状況を把握する。リューズを引き出して針を回してみて、時間調整と日付変更が可能、24時間計が正常に動作することを確認。

文字板にJAPAN MOVTの文字

文字板をよく見ると、『JAPAN MOVT』と小さく印刷されており、恐らく中身はセイコーかシチズンのムーブメントと予想。故障であれば、ムーブメントの取り替えで対処することを覚悟して、裏蓋を開ける。

中身はCITIZEN Cal.0610

ムーブメントはシチズン製で、Cal.0610と分かった。同時に使用電池(SR927W)も判明。電池を交換してみると、すぐに秒針が動き出し、電池切れだったことに一安心。電池に書き込まれた28 7.31という数字から、平成28年7月31日に電池交換されたのだろう。それから2年10ヶ月で電池切れを起こしている点から、約2年と設定されている公称寿命以上に使えていたことになり、ムーブメントの調子は悪くなさそうだ。

クロノグラフなので発停・復針ボタンが備わっており、これが単なるスイッチではないようだ。特に復針ボタンは60分積算計の針を0点に戻すためのリセットハンマーに繋がっているらしく、操作すれば一瞬で0点に戻る。裏蓋を開けたままでの動作テスト時には、あちこちのレバーが動く様子が見えていたことから、ムーブメント内部で何かしらのメカが機械的に動いていることは間違いない。

二つのボタンそれぞれに、機械式クロノグラフと同じく独特のクリック感があり、クロノグラフを操っている感触が楽しめるようになっていた。そしてリセット操作で一瞬で0点に戻る動きもあって、セイコー製の汎用ムーブメントよりも一歩先を行くような印象を抱いた。

このまま一晩運針させて、日付変更の再確認と精度の簡易チェックとなる。お待たせしました。

電池交換とクリーニング

今日『も』午前3時半起きとなった。こう表現したのは理由があって、近所の家の火災報知機が誤作動したらしく、大きな音で響き渡る警報音に起こされてしまった。その後、警備会社がドタドタと走り回る音が聞こえ続け、完全に眠りを妨げられての夜明けとなった。

「使おうと思ったら止まってるしさ、電池交換できる?」と持ち込まれたのは、カシオ G-SHOCK、GA-200RG-1AJF/5229。2010年代のモデルになるので、ケースやバンドには経年による加水分解の症状はなし。連休中なので、翌日返却はできないことを告げてから、作業に入ることになった。

GA-200RG-1AJF

GA-200RG-1AJF/5229はビッグケースシリーズに分類されるそうだ。ケースサイズは50mmオーバーで、装着すれば手首回りの存在感はかなりのものになる。

汚れが溜まっている

いきなり裏蓋を開けるのではなく、まずは外装面…ケースやバンドのコンディションを入念にチェックする。

ケースやバンドの溝になっている部分には垢、タバコのヤニ、ホコリが由来の、凄まじい汚れが溜まっている。これに限らず、G-SHOCKはこの溝部分に汚れが溜まりやすい。過去の経験上、一週間も使えば白い汚れが溜まり始める。電池交換よりも、この汚れのクリーニングが主体になりそうか。

裏蓋を開ける

溜まっている汚れをケース内やムーブメントに落とさないよう、慎重に裏蓋を開け、緩衝材やムーブメントを取り出していく。

分解してクリーニング

ケースとバンドを分解して、こちらはクリーニング待ち。

GA-200RG-1AJFの電池はCR1220

GA-200RG-1AJF/5229の使用電池は、CR1220。公称電池寿命は約3年とのこと。デジアナムーブメントで3年程使えるならば、かなりの省電力設計になっているのかもしれない。その他、ムーブメントにはトリマコンデンサが内蔵されていて、精度の微調整ができるようになっていた。

クリーニングと乾燥が終わったケースとバンドを組み直し、ムーブメントをセットしていたところ、突然ドスンッ!という地響きと共にユサユサと揺さぶられる。千葉県南部を震源とする最大震度5弱の地震だった。揺れで手元がブレてしまい時計の組み立て作業どころではなく、完全に落ち着くまで作業中断。

クリーニング完了

作業再開し、ムーブメントをセット、裏蓋を閉じて出来栄えをチェック。作業前と比べ、非常に美しくなった。

カシオは10時8分37秒

新しい電池によるムーブメントの正常動作を確認して、検査良好。返却日までチェックし続けることになった。しばらくお待ちください。>所有者

作業完了後の時計写真に関して。カシオのアナログ時計は10時8分37秒が正規表現となっており、そこにデジタル画面があれば6月30日の日曜日という日付設定が基本となっている。時計の印象が良くなり、ハッキリとした表情になることから、当ブログで掲載してる時計についても、できるだけ各メーカーの設定時刻にセッティングしている。素人撮影ゆえに、どうしてもズレが生じることはあるが。

分解練習の果てに

シチズン ホーマーの精度調整をするためには、テンプの根元にある『ヒゲ玉』を直接操作する。いきなり触って失敗しないよう、部品取りのテンプを使って、ひたすら練習を繰り返している。

練習とオーバーホールを同じピンセットでやっていた。練習特有の無理な扱いと、オーバーホール中のネジや歯車といった硬い部品を掴んでいたことで、かなりストレスを溜め込んでいたらしく、先端がポロリと折れてしまった。

先端が失われたピンセット

本来はもっと細い先端も、折れてしまったことで厚手のピンセットに変化してしまった。研磨して修正するにも、あまりにも厚すぎる。

先端が折れてしまったとはいえ、研磨すればこのピンセットはまだ使える。時計修理だけでなく、電気回路の基板やステッカーの貼り付けなど、用途はいくらでも考えつく。改めて極細のピンセットを買い直すとして、気になるピンセットのリストアップをしてみれば、10,000円に軽く達しそうな勢い。

分解練習

テンプの分解と組み立ての練習をベースに、よりピンセットをうまく操れるよう、指先の感覚と動きを鍛えているところ。指先の僅かな震えが、ピンセットを通じて時計の部品に達すると、それはもう大きな振動と化してしまう。特にゼンマイ系部品では、振動で先端が大暴れ…。

ムーブメントより取り外したテンプ

ムーブメントより取り外した、テンプ一式。細いヒゲゼンマイでテンワがぶら下がっている。このゼンマイ、ヒゲと名付けられている割には人間の顎ヒゲより細く、ちょっとした曲がりや間隔の不揃いで正確な振動が失われてしまう、極めて繊細なパーツ。ヒゲゼンマイ本体の調整や修正は、熟練した時計師の専門分野だ。それでも弄る理由は、どのような扱いで傷んでしまうか把握するため。

テンプとテンプ受けを分離

テンプ受けから、テンプ本体を取り外す。耐震装置の清掃と注油でここまで分解することはあり、いつの時代も基本構造は変わらない。今のところ、分解整備しやすい耐震装置は、このシチズンのパラショックだ。

テンワからヒゲゼンマイを取り外す

さらに一歩進んで、テンワからヒゲゼンマイを取り外す。ヒゲゼンマイに余計な負担を与えないよう、ヒゲ玉(中心部分)だけに力を加え、水平に持ち上げるのが難しい。

先のテンプ受けにぶら下がっている状態で、ヒゲ玉が簡単に回って妙にガタつくと思っていたら、なんとカシメが緩んでいたらしい。オーバーホール後の最初の歩度チェックで全く精度が出ないことが分かり、部品取りムーブメントからテンプ一式を移植してみたら、ある程度良くなった。精度が悪かった原因の一つに、このテンプも関わっていたことになる。

ヒゲゼンマイのアップ

取り外したヒゲゼンマイのアップ。現物は焼き入れ特有の青い輝きがあり、かなり美しい。写真左側、ゼンマイの終端部分はヒゲ持といい、楔によって圧入されている。ここを外せば、ゼンマイだけになるが、目と指先が疲れてしまい、今日はここまで。

顎ヒゲより細いヒゲゼンマイを扱うには、手持ちのピンセットでは大き過ぎることが分かった。より細くて鋭いピンセットを入手するか、細く仕上げるような加工が必要。ただ、先述したように、ヒゲゼンマイは時計師が扱う部分なので、ヒゲ持や緩急針の組み込み用としてのピンセットになりそう。

38クォーツの電池交換

セイコーの38クォーツといえば、当ブログの時計カテゴリーにおける、最初のオーバーホール事例となった時計だ。オーバーホールして精度を追い詰めて、ようやく所有者へ返却したのが2017年5月下旬のこと。

今年に入ってから「遅れ気味になってきた」ということで、電池切れの症状だろうか。電池の公称寿命は僅か一年なので、二年近くに達しようという成績は地味に驚異的。電池交換のために預かってきたが、持ち運び中のちょっとした衝撃で、秒躍制レバーの噛み込み症状が再び発生していたことも気になる。ひとまず電池を交換して、様子を見る。

Cal.3862とSR44SW

使用電池はSR44SWで、再びmaxell製をチョイス。電池を交換したところ、秒躍制レバーの石を弾く音が「チッ…チッ…チッ…」という小さな音から「ピンッ…ピンッ…ピンッ…」という大きな音に変化したことに気づいた。電池電圧の低下で、モーターのトルクが低下してしまい、歯車の石を弾き飛ばすことができなくなった?そんなことがあるのか。

電池を交換してから24時間が経過し、今のところ秒躍制レバーの噛み込み症状は出ていない。年差クォーツと電波時計の比較では、一日一秒以下の進み具合となっており、月±20秒の規格範囲内と思われる。このまま週末まで診察モードとなる。しばらくお待ちを。

結局正規手順で

シチズン ホーマーの精度調整をするにあたっては、テンプの根元にある『ヒゲ玉』を操作しなければならず、そのための手段として、いちいち取り外して調整するか、横着して隙間から調整するかの二択でどうしよう?と迷ったのが前回の記事

まずは横着パターンとして、1.2mmのマイナスドライバーを削り、先端を細くしたドライバーを作ってみた。

0.07mmのドライバー

先端の太さは0.07mm。殆ど針のような仕上がりとなったが、一応マイナスドライバーだ。テンプの外周部からヒゲ玉まで到達できる長さと、強度を保てるギリギリの太さを追求したら、このようなサイズとなった。

そして、ムーブメントの側面から、テンプのヒゲ玉を狙ってみたが。

ヒゲ玉の隙間は0.07mm以下

「ダメだ、ぶつかるわこれ…」ということで、側面から慎重に差し込んでみたが、作成したマイナスドライバーとヒゲゼンマイが接触し、曲げて壊してしまう恐れがあり、作業中断。テンワ(リング状の回転部品)とヒゲゼンマイの隙間は、どうやら0.07mm以下のようだ。

精度調整は、テンプを外して行う正規手順しかなかった。テンプを取り外し、ヒゲゼンマイでテンワがぶら下がっている状態にして、今回作成したマイナスドライバーを使って、少しずつヒゲ玉を動かすことになった。動かす量は皮膚を通じた感覚で察知するしかないが、本当に僅かな量を動かしただけで2.2msあったビートエラーが、1.7msまで改善した。調整は、一気に行うのではなく、少しずつ時間を掛けてゆっくりと。