鉄道時計といえば、セイコーのSVBR003が有名だろう。運転台に掲げられている、白い懐中時計だ。

▲画像はセイコー SVBR003より引用。
シンプルさを極めており、計器として非常に見やすい。鉄道に限らず、バスで使っている運転手は何人も見てきており、走行ペースを保てるということでプライベート方面で使っている人もいる。
今回、電池交換依頼があり、持ち込まれたのは鉄道時計そのものだったが、なんとシチズン製。

このモデルは初めて見た。しかもJRエンブレムが残る、いわば放出品。

ムーブメントはcal.4769であることが分かる。
受け入れ時点では不動になっており、電池交換してみてそれで動けば精度チェックして返却。そうでなければ次の解決策を考えるということで、まずは裏蓋を開けて使用電池をチェックすることからスタート。

はめ込みタイプの裏蓋で、バコッとけっこう心臓に悪い音が響く。巨大なケースに収められた、小さなムーブメント。保持用のプラスチックスペーサーが占めていた。

使用電池はCR2016、リチウム電池だ。3針式のアナログ時計なら酸化銀電池と思っていたところに、このリチウム電池。大きな針を動かし、そしてなるべく長く使えるようにするための設計だろうか。

古い電池を外してみると、液漏れの痕跡を発見。粉も吹いている。

対するムーブメント側の絶縁シートはキレイな状態を保っていた。電池切れを放置したダメージは電池側のみで、このまま放置状態が長く続けば、絶縁シートが破れてムーブメントの破壊に至っていただろう。
使わない時計であっても、電池交換だけは続けておき、なるべく動かし続けるほうがいい。もし電池切れで放置するなら、時計店に持ち込んで電池を抜き取ってもらうことも視野に入れておく。恐らく「手間賃も2倍掛かるので、動かし続けたほうがいい」と言われるだろうが。

リチウム電池用のアダプターを外すと、ムーブメント本体がよく見えるようになる。シチズンの時計でよく見られる、菱形のデザイン。モーターの軸受けに石が使われていることが分かる。ボタン電池を収められるスペースが残されており、設計や部品は流用している部分が多いのだろうか。

新しいリチウム電池をセットすると、ザッ…ザッ…と駆動音が響き始めた。運針が再開しており、このまま裏蓋を閉じて精度チェックに入る。

持ち込まれる際、事前に「表示にズレがある」と連絡を受けていた。
文字板のズレとなれば文字板を支えてムーブメントに固定する足(干支足)が折れていることが多く、これの修理となると面倒な事態に発展する。簡易的なら真鍮の棒を削り出して接着剤による貼り付け、耐久性と仕上がりを優先するならレーザー溶接加工を依頼せねばならず、実費となってしまう。
どうなっているのかー?とドキドキしながら分解してみると、このとおり。

ムーブメントの右上と左下にあるスペーサーで、ムーブメントと右側の白いスペーサーをネジ止めするようになっている。そこに押し込まれたリューズのテンション、閉じた裏蓋からの圧縮力で、文字板が回転しないように圧力を掛ける構造になっていた。
固定そのものは、文字板をケースに押し付けているだけという、非常に不安定な状態。よって側面からの強い衝撃を与え、リューズを引き出して時間調整モードのまま振るといった振動を与えると、文字板が回転してズレてしまう恐れがある。運転台の時計ボックスに収めることや、運転中の線路からの衝撃程度ならば、問題にはならないと思われる。

ネジの頭に損傷があり、サイズの異なるドライバーで緩めたり、締め込んだのだろう。スペーサーと文字板を接着していた痕跡もあった。かつて運転台で使われていたころは、文字板のズレに悩まされていたのかもしれない。
これから一晩掛けて、精度チェックに入る。返却までしばらくお待ちください。



