映画『ファースト・マン』を見に行く。人類史上、初めて月面を歩いた宇宙飛行士、ニール・アームストロングの伝記映画だ。

月面着陸に成功するまでのフライト絡みでは、ソ連とアメリカの宇宙開発競争、アポロ計画の前段階となるジェミニ計画、アポロ1号の死亡事故、月飛行計画の宇宙飛行士の予備知識がないと、初見では何がなんだか分からない。登場する機械類の作りは、1995年の映画『アポロ13』と比べても隔世の感がある。『アポロ13』ではハリボテ感が強かったサターンVロケットは、ファースト・マンでは大きさから滲み出る不気味さまで感じられる。
一方で、というよりはメインはこちら。二ール・アームストロングという宇宙飛行士の、課せられたテストをやり遂げようとする忍耐強さ、船長という立場でも自己顕示欲の少なさ、娘が死亡しても人前では感情を出さない寡黙なところがハッキリと描かれている。本人の歴史や概要で、控えめな性格、多くは語らないとよく文章で書かれていて、映画でもそのことが際立つ。
私生活のシーンは極普通にしゃべるように見えて、あっという間に相手との会話が終わる。娘が亡くなったことの気持ちは、妻にさえ口にしない。月飛行計画が進みながらも、内容は妻へ話さない。そんな妻は見守ることが多いものの、アポロ11号の段階に入ってくると、万一の心配とプレッシャーで苛立ちが頂点に達するが、それでもニールは口数は少ないまま。
実際のアポロ11号の月飛行計画においても、寡黙なニール・アームストロング、目立ちたがり屋のバズ・オルドリン、マイペースのマイケル・コリンズという三人だったそうだ。作中においても、人が集まっているところにあれこれ口を開いては、周囲の空気をガラリと変えてしまうシーンに、必ずバズがいる。遠まわしに、シーンによっては直接的にバズをたしなめることで、逆にニールの存在感が引き立つ。このあたり、変にでしゃばるより、静かにコトの次第を見守るほうがカッコイイと気づく。
そして何よりも音が光る。X-15の超音速飛行によるソニックブームの低重音、宇宙船のあちこちのフレームが軋む音、そして月着陸船の扉が開いた瞬間。音一つで、恐怖感、緊迫感を演出する様子は、ホラー映画に近いものがある。同じくアポロ計画の映画『アポロ13』において、支援船の爆発により、司令船と月着陸船を連結するトンネルが捻られ、メキメキッと嫌な金属音が響くシーンがあり、あの金属音がこの映画でも出てくる。大丈夫なのか?この船は?と感じられずにはいられない、音響効果にしっかりと取り込まれることができた。この一種の『サウンドホラー』は映画館ならではの体験で、ソフト化しても味わうことは不可能に近い。
さて、年月は少し戻って、2014年の夏。幕張メッセにおいて、宇宙博2014が開催された。その中で、映画中盤の主役となるジェミニ宇宙船と、ドッキングテスト用のアジェナ標的機(それぞれレプリカ)が展示されていた。

そのジェミニ宇宙船。映画の中では、アポロ11号よりも印象強い描き方だ。

グルグルとスピンし続ける原因は、このアジェナ標的機と考えてドッキングを解除するが、重量バランスが狂ったことで、1秒間に1回転するほどの回転速度に達する。

1秒間に1回転で高速回転する船内で、パニックになることなく姿勢制御システムを切り離し、帰還用の推進装置を立ち上げてスピンを止める…ニールは鉄人か!事前知識があるとはいえ、スラスタが噴いて安定を取り戻した瞬間、安堵している自分にびっくり。
宇宙とゲロは密接に関係があり、『アポロ13』では一回、ファースト・マンでは計三回(うち一回は別事情)、吐くシーンがある。現実の宇宙飛行の事前訓練でも、例外なく吐いてしまう辛い訓練があるそうだ。今のところ、これを乗り越えないと宇宙には飛び出せない。













