台風19号による大雨で、長野県の千曲川が氾濫。付近にあるJR東日本の長野新幹線車両センターが浸水し、E7/W7系が水没してしまうという衝撃的な事態が発生した。
「長野の新幹線はどうなるの?」なんてよく聞かれるのだが、全く分からないのが本音。JR東日本の新幹線の形式に至っては完全に把握し切れておらず「あの鼻の赤いやつが秋田新幹線だっけか」と、なんとなくイメージで覚えているレベル。これでは答えようがない。
以下、報道写真を通じて見たことによる、率直な感想など。
最も水位が上がっているときは、窓の下縁部分近くまで達していた。よって車内の水も外と同じ水位まで達したと考えるのが自然で、座席や接客設備、車内に搭載してある機器は軒並みアウトだろう。「新幹線は密閉構造だから浸水は…」といった期待感を抱かせる文章を見たが、それはあくまで走行中の状態であり、一度でも車両の電源を切ってしまえば密閉しなくなる。
車趣味の人なら分かると思うが、水に濡れた座席は早く洗浄して乾かさないと、カビ臭くなって使い物にならなくなる。ただの水でも厄介で、それが吐瀉物や尿といった体液系ではあとから悪臭を放つようになり、飲み物でさえ吐き気を催すニオイに変化する場合がある。今回のような泥水では、ただの川の水ではなく下水管からも逆流した汚水も混じっていると考えれば、座席の再利用は衛生面の視点からも無理だろう。車両の構体の中に、グラスウールなどの断熱防音材が詰めてあれば、それらが浸水してカビてしまうと、車内そのものが臭くなる。
走行に必要な床下機器は、ある程度の防水は利いているが、あくまで雨や雪からの防御策に過ぎない。腕時計でいうところの、日常生活防水や10BAR/20BARといった普通の防水時計みたいなもの。普通の防水時計を本格的なダイビングでは使えないのと同じで、防水された床下機器も完全に水に沈んでしまうようなことは想定されていない。機器内の熱や空気を入れ替えるため、どこかに必ず通気口があり、そこからブクブクと浸水していく。機器に浸入した泥水は、基板や装置全体を腐らせてしまう。
今時の新幹線だけに、実態は半導体装置が集合して巨大になったようなもの。指先程度の小さな半導体が腐って不調になれば、それが致命傷になることも不思議ではない。しかも機器がASSY化されているとするならば、一つひとつの基板を検査することは非常に手間がかかる作業が待っている。検査時はOKでも、その後しばらくして故障を引き起こすのが、半導体の怖いところ。
よって、初代NSXの修理方法に近いパターンで、アルミ合金の車両構体『だけ』にして、水没したワイヤーハーネス、床下機器や車内の設備全ては、新品に入れ替えるか。それとも災害による廃車として、再発注、本数を揃え直すか。どのように復旧していくのか、極めて興味深い。
世間ではバラして乾かせば直る、使えるものは使えとか、いろいろ言われている。その根底にあるのは、鉄道ファンならではの「廃車にしないで、もったいない」という感情的なものが見え隠れする。ただ、新幹線は鉄道ファンの趣味や思いを満足させるために、サービスで走らせているわけではない。輸送会社だけに、告知したダイヤどおりに列車を走らせて乗客を運び、運賃を貰って設備投資した分を回収しつつ会社や路線規模を発展させ、さらには株主に還元しなければならない。
乗客の命を預かることになるのだから、水没後の修理が原因で二次災害が起きてからでは遅い。二次災害が起きれば、それこそ「水没したのに、新造せずに修理したから、乗客が被害にあった。最初から造りなおしておけば、こんなことにはならなかった」と余計に叩かれてしまう。E7/W7系が形式消滅するわけではないので、いつかは元に戻る。まずはJR東日本の専門家が立ち入れるようになってから、判断すればいいだけのこと。
私を含め、現段階で外野があれこれ言うのは、本当は筋違い。