信号から発進するときや一旦停止の交差点を曲がるときなど、停止状態から加速しようとアクセルを踏み込みつつ半クラで車体を動かそうとすると、普段と同じペダル感覚ではエンストしそうになることが妙に多かった。MT教習車のように、大げさにアクセルを踏んでクラッチを滑らせつつ、ソロリソロリと発進させるような感じだ。
エアコンは使っていないのに、この動きにくさ。エンジンの不調か?と思ってメーターをよく見てみたら、燃料が残り少なくなっており、ああこれか…と気づいた。発進がしんどくなっている原因はここにある。
EK9シビックRの燃料タンクのすぐ横に排気管があり、燃料タンクを熱しやすい構造になっている。これは特段珍しいことではない。

燃料タンクと排気管が最も近づく部分には、なぜか遮熱シールが貼り付けられており、今から20年前の初代オーナーの手によるものだろうか。
燃料が多いときには排気管からの熱に耐えられるが、タンクが空に近くなると燃料の温度が上がりやすくなってしまう。温かい燃料がエンジンに噴射されることで、混合気の温度が上昇し、吸気温度の上昇と酸素密度の低下につながり、トルクが落ちてしまう。
しかもEK9シビックRの燃料供給系統は、リターン式と呼ばれる構造となっている。インジェクターに向かって多めの燃料を送り込み、フューエルプレッシャーレギュレーターで調整した後、余分な燃料はガソリンタンクに戻される。熱いエンジンを通過するために、燃料が温められてしまう欠点がある。

黄色の丸がフューエルプレッシャーレギュレーター。その先の赤い矢印が燃料タンクへ戻っていくホースで、熱いエンジンを通過して温かくなった燃料が戻っていく。燃料タンク内のガソリンが多ければ冷やせるが、残り少ない状態では冷却が追いつかなくなる。ここでも先に記述したように、温かい燃料で混合気、吸気温度が上がって酸素密度が落ち、トルクが落ちる原因になる。
燃料が温まれば、それだけ大気汚染に繋がるガソリン蒸気が発生しやすくなる。地球環境に対応しなければならないイマ車では、リターン構造を廃止したリターンレス式に切り替え、インジェクターで噴射する分だけの燃料を送り込む構造となり、温度を上げにくい構造となった。さらには低コスト化と軽量化も追求している。
燃料の温度については、経路上に空冷式水冷式問わずクーラーを装着する車があるほどで、レーシングカーでも装備していることがあり、パワーに直結する部分ながらも、あまり注目されないように思える。リターン式燃料供給システムであれば、燃料冷却の効果はすぐに分かる。ガソリンを満タンにすると重量が増えているのに、発進がずいぶんとラクになるあの現象だ。

計算上の残りは7.6L前後。遠出のときはリッター20を出しながら、日常の足車として使えばリッター10程度。ただでさえ暑い環境で路面からの照り返しがあり、排気管とリターン経路でガソリンが冷えなくなってしまえば、パワーも出なくなる。地震対策で、普段は燃料計の針が半分まで落ちた段階で満タンに戻すが、毎日の通勤買い物車モードでここまで減らしたのは久しぶり。こんな背景があって、走りにくい感覚を味わうのも、これまた久しぶり。
満タンでガソリンスタンドを出発するその一発目から、走り出しが軽い。これこそEK9だと思いつつ、家路を急いだ。