レイのGP5氏:「ウチにシチズンのホーマーって時計がありまして」
私:「ホーマー?それって確か、えっらい古いやつじゃね?」
レイのGP5氏:「そうです。爺さんの形見なんですが、リューズが硬くて巻けなくて」
私:「なんだそりゃ。ちと診てみようか。持ってきてくれる?」
というわけで、レイのGP5氏の家で保管されていた、シチズンの手巻き式腕時計、ホーマーがやってきた。確かにリューズが凄まじく硬く、ゼンマイが完全に巻き上がった状態のまま固着しているような感覚だ。無理に扱うと、香箱内部のゼンマイが切れてしまう恐れがあり、慎重な初診となる。

裏蓋のシリアルナンバーから読み取れる製造年月は1964年4月。内部が入れ替わっていなければ、54年9ヶ月が経過している。東海道新幹線は開通しておらず、東京オリンピック前。アポロ宇宙船は、まだ一機も飛行していない。そんな時代の腕時計。
シチズンホーマーは、旧国鉄の鉄道時計として制式採用されたモデルがあり、そちらのほうで有名。エナメル仕様の黒い文字板かつノンデイトのホーマーはレアモノらしく、リファレンスの特定ができるような資料は現在のところ全く発見できず。
文字板に『PARASHOCK』と書き込まれている。遡ること1950年代、高度30mのヘリコプターから落として、壊れない構造を国内で初めて搭載したシチズンパラショックに至る。そんな耐震装置を内蔵していることを示している。
カシオのG-SHOCKが、3階の便所(10m)から落として壊れないような耐久性をアピールしていたのが1980年代前半。シチズンは、それよりも30年以上前に、G-SHOCKの3倍となる30m(オフィスビル換算7から8階)の高さから落としても壊れない機械式時計の設計に成功していたあたり、設計と技術の凄まじさがよく分かる。
風防はアクリル製で、さすがに半世紀以上の経過年数で大小さまざまなクラックが入っているが、ガラス風防のように次々に欠けてしまう恐れはない。風防の周囲の茶色い変色は、全て手垢。

ケースを細かくチェックしていくと、ケースのカンの穴に折れたバネ棒の先端が食い込んでいるのを発見。これを除去するには、ドリルで穿り出すしかないが、極めて厄介な状態に陥っている。

ペルラージュ模様が施された美しい裏蓋。ケース表面の具合から、ムーブメント本体が錆だらけになっていることも予想していたが、幸いにして金属の輝きを放っている。ただし、固定リングやケース内側に錆が出始めているあたり、軽く研磨して整えてあげたほうが良さそう。

ムーブメント本体を目視チェック。手巻き時計の標準的な構造をしており、見慣れた光景。18000bphのロービートで、ガンギ車とアンクルから発せられる音は、本当にいい音だ。ただし、テンプの動きが極めて重たく、油切れを起こしているか、天真(軸)の曲がりや磨耗まで予想される。
なぜ、ゼンマイが巻けないのか。これを解明するには分解して調査するしかないが、巻かれた状態で固着していた場合、ゼンマイにエネルギー(トルク)が蓄積されたままなので、何も考えずに解放すると暴走してしまい、周辺部品を傷めてしまう可能性がある。
直す直さないよりも、初めてのシチズンの時計だけに、耐震装置の構造や時代背景等をじっくり勉強させてもらうことになった。まずは手垢がびっしり付着している、ケースをキレイにすることからスタートだ。