車検
とラジエターの再交換の後点検を行っていたころ、ちょうど昼食時を向かえた。食事に行くためエンジンを掛けようとしたが「キュキュキュキュ…」とセルモーターは動作しながら、エンジンが全く始動しなかった。何度もイグニッションキーを捻ってみたが、一向にエンジンが始動しない症状が続いた。
始動不能に陥る30分くらい前の走行では、問題や違和感は一切なし。ただし、停車する直前にエンストを起こしていた。たまたま止めようとしたところでエンジンがストールしたことや、ギアを入れたままクラッチペダルから足を浮かせたかどうかは定かではなく、久しぶりにエンストを起こしたかな?という印象のほうが強く、特に気に留めていなかった。
状況把握
エンジンが始動しないことから、さっそく調査、そして解決できそうなら対処することになった。イグニッションキーを0(OFF)からII(ON)にすると、燃料ポンプの動作音が鳴ることから、燃料ポンプ及びメインリレーは正常に動作しているから良好。
その証拠に、インジェクターからの燃料噴射は正常に行われていて、全シリンダー内には湿り気と強いガソリン臭があり、スパークプラグも燃料で湿ってかぶり気味となっていた。
次に点火系の点検。全インジェクターからカプラを外し、燃料噴射を止める。全シリンダーからスパークプラグを外し、一番プラグコードとスパークプラグを接続、外側電極をエンジンの金属部分と接触させ、イグニッションキーをIII(他社ではSTART)まで捻り、火花が飛んでいるか目視点検をする。
結果、火花が一切散っていないことを確認。
想定故障と調査
1.)ディストリビュータの故障
以下、ディストリビュータはデスビと表記。
スパークプラグの火花が一切飛ばないことから、最も疑うべき故障。高回転時の着火ミス等の明らかな不調は無かったが、車検時にはデスビ内部で変色
があった。この茶色の粉塵はベアリング、シャフトの摩耗によるもので、機械的な末期症状の一つとされる。放置すると軸の固着=カムシャフトのロック、バルブとピストンの衝突、エンジンブローにつながっていく。
確かに、以前からデスビ内部からガラガラ音が響いていたことから、軸関係は経年劣化があっておかしくはない。ただし、火花が飛ばない電気的な不具合と、回転軸の摩耗という機械的な不具合は全く別の問題。火花が飛ばないことから、イグニッションコイル、イグナイタのどちらかに不調を抱えていることになる。
2.)ECUの故障
始動不能状態に陥るまで、エンジンチェックランプは点灯していない。イグニッションキーをII(ON)にすれば、エンジンは動かないだけで、電装関係全てが正常に動作。サービスチェック用カプラを接続してエラーログを参照しても、始動不能に直結するようなログは記録されていなかった。
3.)その他の不具合
ハーネスのショートや断線があれば、突然の異臭や発煙、スパーク音が起きるが、一切無し。全プラグコード本体を点検したところ、焦げや亀裂といった損傷は無かった。
以上、3件の故障を想定し調査した結果、デスビ本体、特にイグニッションコイルもしくはイグナイタのいずれかに不具合があると判断し、デスビの交換を行うことになった。
デスビの交換
デスビはエンジンのヘッド部分、4本のプラグコード集中する部分がそれで、M8(小12mm)のボルト3本で固定されている。デスビはストックしてあった純正新品を使用する。
デスビからプラグコードとカプラを外し、3本のボルトを抜けば外すことができる。上部のボルトはすぐに外せるが、残り2本はアクセスが面倒な部分にあることから、オフセットめがねレンチを使用する。
左が新品デスビ、右が故障したデスビ。車検時にキャップ部分を交換しているので、両方ともに見た目はきれいな状態を保っている。金属シャーシ部については、さすがに新旧で差がある。ただ、新品も長期在庫品だったためか、あちこちに錆のような汚れが付着していた。
エンジン装着側より。今度は左が故障したデスビ、右が新品デスビとなる。新品デスビに付着している、錆のような汚れがしっかり撮影されて、保存状態が良くなかったことが予想できる。故障したデスビのOリングは、200,000kmでのタイミングベルト交換
時に同時交換しているので、オイル漏れの原因になる損傷はなく、弾力が健在だった。
デスビをエンジンヘッドに装着する際、カムシャフト側の切溝とデスビ側の爪は偏心しているので、正しい位置を確認する。Oリングには、グリスの代用としてエンジンオイルを塗布した。
新品デスビを装着したら、ボルトを仮締めしておく。カプラ、プラグコード、スパークプラグも再セットして、点火時期の調整準備を整えておく。
再始動!
イグニッションキーを捻ると、エンジンは一発で掛かった。このときの始動音とエンジンの快音といったら、映画Uボートで、ジブラルタルで浮上成功後、エンジンを再始動させるシーン、「こんな素晴らしい音は初めて聞くぞぉ!」という機関長の笑顔そのものだった。エンジンが冷え切っており、ラジエターの電動ファンが2回動作するまでは暖気運転を続ける。
十分にエンジンが温まったら、点火時期の調整
を行う。正しい時期に設定できたら、デスビの取り付けボルトを本締めして交換作業を終える。
故障したデスビ
さっそく分解して、イグニッションコイルの点検を行う。A端子とB端子間は0.5Ωで0.63-0.77Ωの基準値外、A端子と2次端子間は12.2kΩで12.8-19.2kΩのこれまた基準値外となっていた。ただし基準値は20℃のときのもので、測定時は冬場の冷えた室内だったため、コイルの不良疑いは除外することになった。
よく見ると、イグニッションコイルのプラスチックカバーにヒビが入っていた。熱や細かい振動のストレスだろうか。深いヒビではないことから、コイルの不良とは直接の関係はないものと判断した。
火花を飛ばさなくなった原因の最有力候補、イグナイタ。車体側とカプラで接続し、イグナイタにつながるケーブルを切り離して、導通チェックすることで不良か否かを判断することができる。
イグナイタから黒/黄、白/青、黄/緑、青コードの全接続を外し、イグニッションスイッチをII(ON)にする。黒/黄コード(+)とボディアース間、白/青コードとボディアース間はそれぞれバッテリー電圧で良好。
次にイグニッションスイッチをOFFにして、青コードとボディアースの導通の有無をチェックしたところ、導通が無かったことから、イグナイタの不良となり壊れていると判断した。スパークプラグが火花を飛ばさなくなり、エンジンが始動しなくなった原因は、このイグナイタの不良だった。単体部品として設定がある
が、軸受けや内部ケーブル類の経年劣化が心配だったことから、オーバーホールはせずに解体廃棄とした。
デスビの軸受けはエンジンオイルで潤滑し、デスビ内部へエンジンオイルが流入しないよう、オイルシールで封じられている。17年210,000kmオーバーでもエンジンオイルの滲みは極僅かで、密封性は正常に機能していた。ガラガラ音は発していたが、ガタつきや引っかかりは無く、スムーズな回転が維持されていた。
| 30100-P73-A02 | ディストリビューターASSY. | 60,264円 | 1個 |
〆
冒頭で書いたように、停車直前のエンストが、実はデスビの故障によるエンストだった。それまでは不調知らずだったことから、いきなりのエンジン始動不能には驚かされた。
とはいえ、この先もデスビは動作し続けるとは思っておらず、以前からデスビ本体を確保していたことがここで役に立った。何より運が良かったのは、一時的に不動車化したのが、自宅近くだったことだ。一旦自宅に戻り、SCSショートカプラとタイミングライト、デスビ本体を引っ張り出し、現地に急行。交換に伴う作業時間は10分程度で、暖機運転と点火時期調整の方が時間を要した。その後のテスト走行では何ら問題は無く、バッテリーも頻繁なセルモーターの動作に耐えてくれた。
17年210,000kmオーバーで、初の完全故障事例となった。
走行距離:216,844km