法定12ヶ月点検の時期がやってきた。

今夏あたりから、ブレーキペダルに違和感を抱くようになっており、完全なトラブルが起きる前の予防保全として、真空式制動倍力装置…ブレーキブースターの交換を依頼した。

ブレーキブースターの簡易点検方法の一つとして、エンジン停止時にブレーキペダルを2~3回踏んでいくと硬くなり、踏み込める量が少なくなる。その状態でエンジンを始動すると、ブレーキペダルは奥へ入るようにして下がっていくことを確認する。

この簡易点検では異常はないものの、一日の運用が終わって一晩経過すると、翌朝のエンジンスタート前にはブレーキペダルが硬く、高い位置にある。そしてエンジン始動と共に、奥へ下がっていく。前日のエンジン停止時には、ブレーキペダルは踏んでいない。

ブレーキブースター

写真中央、乳白色のタンクの背後にある、黒い大きな円形の部品がブレーキブースター。足で踏み込んだペダルの踏力に、大気とエンジンの吸気から作り出した真空状態の圧力差を加えることで、ブレーキ力を補助する仕組み。

エンジンを止めてから、あえてブレーキペダルをパカパカと踏んで、ブレーキブースター内の真空状態を解くような行為はするわけがない。突如起きた症状だけに、違和感に気づくことになった。

ブレーキブースターは交換可能だが

ざっと調べてみたところでは、一晩で真空状態が無くなってしまう症状は少なからずあるようで、どれもブレーキブースターやマスターパワーチューブの交換で対処可能とのこと。

マスターパワーチューブ

エンジンとブレーキブースターを接続し、真空状態を維持するマスターパワーチューブは2016年1月30日に交換済みlink。残るはブレーキブースターとなり、こちらは22年間使った部品で、経年による本格的なトラブルが起きる前のリフレッシュも兼ねて、交換となった。

使用パーツその1
7.  46191-634-000  ガスケット,マスターシリンダーブラケット  324円  1個
8.  46400-S03-Z01  パワーASSY.,マスター(7インチ+8インチ)  58,080円  1個

ブレーキブースターとパネルの間に挟まれる、ゴム状のガスケット(7番)も同時発注された。

2ウェイバルブ交換の残り作業

点検内容の打ち合わせに「他に気になるところは?」と聞かれ、すかさず作業を追加申告する。

先月下旬に2ウェイバルブを交換しているlinkが、2本の接続チューブについては未交換だった。車体側パイプと燃料タンクへの接続部分がガッチリと固着しており、無理に外そうとするとパイプを折ってしまう恐れがあったため、プロの手による交換を依頼。

亀裂が入った2ウェイバルブのチューブ

2ウェイバルブを取り外す前の時点で、チューブに亀裂が入っていることが分かっていた。このときは2ウェイバルブだけを交換し、亀裂の入ったチューブをそのまま使っている。

新品チューブの部品番号を検索していたところ、見覚えのある番号が出た。以前に購入していたような記憶が、微かに蘇ってきた。部品保管庫の中を探してみるとすぐに発見、確かに買っていた。

チューブはバルク品で

新品チューブは、バルク状態での供給となる。パーツリスト上では燃料タンク⇔2ウェイバルブ間、及び2ウェイバルブ⇔リターンパイプ間それぞれにチューブが設定されているが、仕様そのものは共通。よって購入しようとすると、写真のように1mのチューブで出され、必要な長さに切り出して使う。

使用パーツその2
40.        チューブ,フューエル 5.5X140        1個
41.        チューブ,フューエル 5.5X190        1個
 ※:供給は95001-55001-60M、680円。
42.  95002-02104  クリップ,チューブ(B10)  74円@37円  2個  

パーツリスト上では42番のクリップは計4個使うことになっているが、現車をチェックすると燃料タンク⇔2ウェイバルブ間のチューブでは使われていないので、必要数は2個とした。全て2015年に購入したもので、持ち込みにて対応してもらうことになった。

ディーラー側の計画では、当日返却となっていた。世間はコロナ禍、他人と接触することなく移動できる車のメリットが再認識されたものだから、変わらない予約量どころか溢れることになったようで、より大変な状況になっていた。

これで当日には終わらないと見ていたところ、今日中に終わりそうにない、翌日の返却に延ばしたいという連絡が入り、ある意味では予定通り。

22時を過ぎてもまだ作業中

ディーラーの担当メカニック氏は、毎日どういうスケジュールで勤務しているのだろう。労働基準法では、22時以降は深夜労働として割増賃金が発生するが、体を酷使していることは容易に想像できる。疲労からの労災には至ってほしくはないので、翌日返却でも問題なし。

作業後のチェック

夜間作業を経て、翌朝も開店前から最終整備を行っており、午前中のうちに全て終了。無事に出庫となった。クラッチフルードの交換でクラッチペダルが軽くなり、スコッとクラッチペダルが下がることに驚いた。

まずは2ウェイバルブからチェックする。

完全にリフレッシュされた2ウェイバルブ周辺

2本のチューブを交換したことで、2ウェイバルブ周辺は完全にリフレッシュすることができた。艶と弾力のあるキレイなチューブが見れるのは今だけ。常に外気と走行風に曝されている部分なので、短期間で外観は変わっていくだろう。

チューブの亀裂は内側にも進行していた

外されたチューブ。亀裂は表面だけかと思っていたら、内側まで及んでいた。パイプの接続部分以上に亀裂が進行してしまうと、ガス化したガソリンが大気に放出され、2ウェイバルブのコンディションによっては液体としてのガソリン漏れも起きていたかもしれない。古くて傷んだ燃料系統が、車両火災の原因とはよく聞く。現役で走っていても22年が経過しているので、燃料系統のフレッシュは積極的に行って正解だった。

続いて、本命となるブレーキブースターのチェック。

EK9用ブレーキブースター

同一品ながらも新品に交換されると、艶のある見た目からまるで別物のよう。サプライヤーはSPOONの対向式ブレーキキャリパーでお馴染み、NISSIN(日信工業)。ペダルタッチや効きは相変わらず軽い踏力でしっかり効き、今までと変わらないブレーキ操作が維持できている。

外観チェック

異常個所を調べるため、取り外したブレーキブースターは持ち帰ってくる。車体についていると気が付かないが、単体で部屋に持ち込むと、妙に巨大化した印象を受ける。既に周囲のカシメ部分を起こしており、解体作業を開始している。

コーヒー缶との比較

コーヒー缶と比べてみると、このサイズ。車体に取り付けられていた部品だけに、オイルやガソリンといった油系のニオイが少々感じられる。

作業用デスクにて

作業用デスク上にある、腕時計やエタノールのボトルと比較すると、鍋状の部品なのでかなりのスペースを占有することが分かる。

…と、ここから本格的に解体して内部調査を行うつもりでいた。カシメ部分を起こそうとしたら、工具が滑って人差し指を挟んでしまい負傷、5mm四方の皮状の肉片がブレーキブースターの上に落ちていた。出血は夜、寝る前にようやく止まる。傷口が回復してから、改めて解体作業を再開する。

ブレーキブースターの分解調査

一週間ほどして、指の欠けた部分がカサブタ状になり、傷口の回復が本格的に進んでいる。握力が回復し指の動きにくさが解消されたので、さっそくブレーキブースターを分解することになった。

プッシュロッド側状況

ブレーキマスターシリンダーと接触するプッシュロッド部分。ブレーキマスターシリンダーのメンテナンスを怠っているとブレーキフルードが漏れてしまい、この窪んだ部分の塗装がハゲる、ハゲた部分から錆が生じることがある。

ブレーキマスターシリンダーは定期的にオーバーホールを行っていることから、ブレーキフルードの漏れは生じておらず、経年による僅かな錆が生じているのみ。グリスで覆われているので、油分がたっぷり付着している。

リアダイヤフラム部分状況

カシメ部分を起こしてやり、ハウジングを開封する。最初に見えてくるのは、リアダイヤフラムと呼ばれるゴムの膜。写真はブレーキペダル側から見た様子で、中心シャフトがブレーキペダルと繋がる。エンジン動作中は真空状態に保たれており、ブレーキペダルを踏み込むと踏力に応じて大気圧が流入、ダイヤフラムとプッシュロッドを強力に押し込む。

ブレーキペダル側のダイヤフラムなので車内の粉塵が流入しやすく、異物の侵入を防ぐためにオペレーティングロッド(中心シャフト)部分にはフィルターが設けられている。フィルターの汚れと損傷はあるが、ダイヤフラム本体は22年モノとは思えない柔らかさを保っていた。

オペレーティングロッド部分の外周状況

オペレーティングロッドが貫通するハウジング部分は、大量のグリスとパッキンでシールされている。こちらも目立った異常は見つからず。

プッシュロッド側を分離する

ハウジングとフロントダイヤフラム側を分離する。リターンスプリングとプッシュロッドはハウジングとバルブボディに挟み込まれているだけで、分離と同時に落下するようにして出てくる。

リターンスプリングとプッシュロッド

リターンスプリングとプッシュロッドのサイズ。真空状態と大気圧の差を利用するとはいえ、この細いシャフトを通じて踏力を油圧に変換し、1t近い車体を制御する。そしてスプリングは、大気圧に打ち勝つために柔らかくはない。顔に向けて飛ばさないように注意する。

マスターパワーチューブの接続部分裏

インマニサージタンクと繋がり、真空状態を保つマスターパワーチューブとの接続部分の裏側。教科書によっては、ここにチェックバルブ(逆止弁)が装着されているとの記述があるが、実際はパーツ…車種による。チェックバルブはマスターパワーチューブ内に内蔵されているため、ブレーキブースター側は何もなし。

バルブボディとリアダイヤフラムを分離する

バルブボディとリアダイヤフラムを分離。リング状の金具でカシメられていたが、マイナスドライバーで軽くコジるとポンッと跳ね上がって取れてしまい、固定が妙に緩かった。試しにリングをニッパーで切断してみたところ、硬さは金属そのもの。

リアダイヤフラムとリアプレート

リアダイヤフラムプレート、リアプレートの順に単純に重ねられているだけなので、分離は簡単に行える。

フロントダイヤフラムとフロントプレート

続いて、フロントダイヤフラムとフロントプレートの分離に取り掛かる。こちらもリング状の金具でカシメられていたが、先ほどと違って非常に硬い。マイナスドライバーから火花を散らしつつ、ようやく取り外すことができた。

フロントダイヤフラムとフロントプレート

分離完了。ハウジング内に2枚のダイヤフラムを組み込んだ、7+8インチのタンデムタイプとなる。ブレーキマスターシリンダーのピストンをより強力にアシストするための構造となっている。

分解した構成部品それぞれを点検したところ、ダイヤフラム(ゴム)本体や各パッキンに損傷はなく、暗いハウジング内かつ真空中で動作することから、酸素や光によるストレスは無視できると考えられる。唯一、リアダイヤフラムの固定リングが緩くなっており、少しずつ空気が漏れていたことで、真空状態が保てなくなっていた可能性がある。

目に見える損傷があれば不調と高額費用の交換に納得できるが、僅かな緩みレベルでは真空計による長時間の計測と診断が必要になる。よって経年による不良及び今後の運用に備えたリフレッシュとして、割り切ることになった。

12ヶ月定期点検整備そのものは異常なし。点検記録簿上も殆どがレ点が続き、ブレーキキャリパーやエアクリーナーといった部分でC(清掃)マークが入っていたくらい。街乗りのみで、峠道ではエンジンブレーキを多用しながらダラダラと降りてくるようになっているので、ブレーキパッドへの負担が減り、溝残量は前回の車検から1mmの減少となる。

ブレーキブースターの交換となれば、構造上の都合からブレーキマスターシリンダーと共に取り外すことになり、その際はブレーキフルードを抜かなければならない。この仕組みから、ブレーキブースターの交換工賃は、ブレーキフルードの交換工賃も追加され、そこにブレーキフルード代も加算されることが分かった。

この先の、目標となる384,400kmまではかなりの年数を要する。不安を抱えたまま走るくらいなら、ブレーキブースターの交換に躊躇することは無かった。手元のパーツリストから高額な部品であることは把握できており、ついでにコロナ禍でもボーナスが平年と同等の支給額だったことが、スムーズな依頼に繋がった。不調の発覚タイミングと世間の情勢で、厄介な事態に陥ることを覚悟していたが、今回ばかりは全て運が良かった。

走行距離:319,352km

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