2014年9月7日にミッションのオーバーホール
を依頼した。ミッションを降ろすことになり、同時にクラッチ周辺のパーツも全て交換し、何事もなく無事に終了した。
それから3年、60,000kmが経過した2017年の夏あたりのこと。クラッチペダルから足を離していると、「キュルキュルキュル…」と金属音、スズムシやコオロギの鳴き声のような異音が聞こえるようになった。クラッチペダルを軽く踏み込むと異音が止まることから、クラッチレリーズベアリングからの異音のようだ。
プロの整備士による簡易診断では、「ダメになったことを予感させるような音ではない。レリーズベアリングのためだけに、ミッションの脱着は工賃が掛かりすぎることから、二度目のクラッチオーバーホールのときまで我慢し続けるのも一つの手段」ということだった。
さらに一年が経過した2018年暮れ。静かな夜間であれば接近していることに気づくほど、次第に音が大きくなってきた。走行中でも車内に異音が聞こえてくるほどになり、さすがに耳障りなので交換を決意。ミッション降ろしの作業スキル習得を兼ねて、いつもどおりのDIY(Dore Ittyo Yattemikka byサボリーマン
)で行うことになった
交換用のクラッチレリーズベアリングについて
ミッションのオーバーホールの際に同時交換したクラッチレリーズベアリングは、ホンダ純正部品を使用した。公道だけでなく、サーキットでのスポーツ走行という過負荷条件があったとはいえ、3年60,000kmで異音が発生してしまったことから、もう一度純正品を使う気にはなれなかった。
そこで今回は社外品、SPOONのレリーズベアリングをチョイスした。SPOONが謳う
、『高回転、高負荷で、熱にも強いベアリング素材と専用のグリスを注入』という特徴に期待。
| 1. | 22810-EK9-G00 | [SPOON] RELEASE BEARING | 8,000円 | 1個 | |
| 2. | 22821-P80-010 | フォーク,クラッチレリーズ | 1,760円 | 1個 | ※1 |
| 3. | 22825-P0S-000 | ボルト,レリーズフォーク | 390円 | 1個 | |
| 4. | 22835-P80-000 | スプリング,クラッチレリーズセッティング | 230円 | 1個 | |
| ※1 2016年春価格 | |||||
レリーズベアリングに絡む交換部品としては、上記のとおり。レリーズフォークやピボットボルトといった、レリーズベアリングの動作に応じて摩耗する部品も、同時に交換する。
なお、ミッションやサスペンション周辺の脱着に伴い、サービスマニュアル上で『分解時交換』に指定されている各ボルトやナットは全て新品を揃えており、ミッションに関係する各マウントも純正新品を用意
。さらにミッションオイルを抜くため、それらのパーツ代として20,000円が計上される。
レリーズベアリングの取り外しまで
ミッションジャッキは持っていないので、通常のガレージジャッキでミッションの下から支えつつ、荷締めベルト(ラッシングベルト)で吊り下げる方法で、ミッションとエンジンを分離した。
荷役バンドは蛍光グリーンで、耐荷重は100kgと小型のものを使用した。今回だけの使用なので、ホームセンターの格安プライベートブランド品をチョイスしている。
学校の自動車部や筋力のある人等は、下にもぐったまま腕力、腹筋、背筋でミッションを持ち上げ、引っ張り出すそうだ。
ミッションの脱着については、基本的にはサービスマニュアルに従って作業している。ドライブシャフトとハーフシャフトはミッションから抜くだけで、ハブからは外していない。
エンジンスティフナーを外すと、フライホイールの裏側が見える。錆由来の茶色に変わっていることはなく、鋳鉄特有の美しい灰色をしていた。「フライホイールって本当にあったんだ!都市伝説じゃなかった!」とは、サボリーマン
の弁。写真を通して部品を見るのではなく、肉眼で見れるのが実作業の面白さ。
ミッションは完全には降ろさず、手を突っ込んで、レリーズベアリングとレリーズフォークが外れるくらいの隙間を開けるに留める。
いよいよ交換対象のレリーズベアリングが見えてきた。目視点検上ではクラッチカバーのダイヤフラムスプリングとの接触面が錆びており、レリーズベアリングの調子はどうか。
レリーズベアリングと接触する、クラッチカバーのダイヤフラムスプリング側も茶色になっている。著しい摩耗による段付きはない。「ダイヤフラムってピザみたいなカタチですよね。ピザの先端が茶色」と、ハイテンションサボリーマン。
各部品の新旧比較
左:新品のSPOONレリーズベアリング 右:取り外した純正レリーズベアリング
取り外されたレリーズベアリングは、合計87,213kmの走行となった。サーキットでのスポーツ走行を含めると、実走行距離以上の負担を強いていた可能性がある。早いタイミングでダメになったと思っていたが、大小様々なストレスが積み重なったことが、異音の原因の一つと考えられる。
新品のレリーズベアリングには、ハッキリと『NACHI』という文字が見える。これは株式会社不二越のブランド名で、NACHIとは、日本海軍の重巡洋艦『那智』に由来する。昭和天皇が不二越の製品を見学したことに感激し、そのときのお召艦だった那智から、ブランド名を採ったとのこと。
レリーズフォークと接する裏側をチェック。塗布されていたグリスは黒化、カチカチに硬化しており、完全に潤滑機能は失われている。その状態でレリーズフォークが直に接触することを繰り返し、段差ができるほど削れていた。
内部の潤滑が失われているようで、振るとカラカラと音がする。新品と比べると軽い重量に感じることから、内部のグリスが抜けてしまっているのかもしれない。さらにクラッチカバーのダイヤフラムスプリングと接する回転体(内輪側)は、ガタつきがある。異音の原因は、このレリーズベアリングにありそうだ。
SPOONレリーズベアリングには、不二越での型番…55SCRN41Pが打ち込まれている。
そしてこちらは、純正レリーズベアリング。SPOONレリーズベアリングと同じく、55SCRN41Pという型番となっていることから、少なくともベースは同じ製品を使っているものと思われる。
となると、SPOONによる『高回転、高負荷で、熱にも強いベアリング素材と専用のグリスを注入』が本当ならば、あまり需要の多くはない部品を製造ラインに流している、メーカーの凄さがある。まさか同じ製造ラインの部品をSPOONで購入すると、段ボール箱とパッケージを変えられて、そういう値段に?なんて、信じるものは救われる。
左:新品のレリーズフォーク 右:取り外したレリーズフォーク
取り外したレリーズフォークは、レリーズベアリングと同様に潤滑機能がなくなっていた。新品と比べると、山状に成形されている先端部分、レリーズベアリングとの接触部分が削られている。これではレリーズベアリングが軸方向に動きやすくなってしまい、余計にガタつき、異音の発生に繋がってしまう。
結果、レリーズベアリング、レリーズフォークの摩耗が、キュルキュル音の原因と判断した。なお、フライホイール側のパイロットベアリングは、指を突っ込んで触れてみた状態では、ガタつきやゴロゴロとした感触はなく、交換はしなかった。
レリーズベアリングの組み込み作業
作業は折り返しに突入。硬化していた古いグリスは全て拭き取り、ピボットボルトを交換してからグリスアップする。
使用したグリスは、サービスマニュアルで指示されているとおりに、ウレアグリスとした。
レリーズベアリングとレリーズフォーク側にもしっかりとグリスアップした後、ミッションケースにセットしていく。
レリーズベアリングとレリーズフォークを装着し、エンジンブロックと合わせる寸前。
ミッションの取り外しより、装着のほうが難易度が高いと感じた。というのも、エンジンブロックやスティフナーはアルミ製で、ネジ穴も同じくアルミ。そこに鉄のボルトで締めていくことになるので、ちょっとした不注意やボルトの清掃忘れでネジ穴を損傷する可能性があり、より慎重な作業が続くことになった。ボルトの締め付けトルクは、サービスマニュアルの全て項目を複数人で一つひとつチェックし、確実に組み立てていく。
付帯作業・バックアップランプスイッチの交換
ミッションオイルが抜けていることを利用して、バックアップランプスイッチ、スピードセンサーを同時に交換した。まずはバックアップランプスイッチの交換から。
バックアップランプ(後退灯)スイッチはミッションに直付けされており、構造上ミッションオイルが抜けているときに交換するのがベスト。2014年9月のミッションオーバーホール
の際、同時交換を依頼することを忘れており、その後の部品手配で新品をストックしたまま、現在に至る。
バックアップランプスイッチは図中12番。他の図と違って、セット位置の線が描写されていないが、現車を見るとすぐに分かる。
フロントノーズ側から見ると、ミッションの上部にコネクタがあり、手の届くところに位置している。そのままハーネスを辿って、ミッションの下側に向かう。
すると、ミッションに直付けされたバックアップランプスイッチの本体に到達する。ハーネスはクランプに押し込まれて固定されており、引っ張れば外せる。バックアップランプスイッチの締め付けトルクは25N・m(2.5kgf・m)で、図中22番のワッシャー(ミッションオイルのフィラーボルト用パッキンと共通)も同時交換する。
| 12. | 35600-P21-003 | スイッチASSY.,バックライト | 1,998円 | 1個 |
| 22. | 94109-14000 | ワッシャー,ドレンプラグ14MM | ?円 | 1個 |
付帯作業・スピードセンサーの交換
続いて、スピードセンサー(車速センサー)の交換だ。ここ最近、スピードメーターの針が突然ビクビクと振れることがあり、センサー本体がダメになってきたと判断して、このタイミングでリフレッシュすることになった。
スピードセンサーの装着位置は当blogのミッションオイルの交換方法
で記載しているが、改めて。
スピードセンサーはミッションケースの上面、サーモスイッチのさらに下側に位置する。
コネクタを外し、背後にあるボルトを緩めてスピードセンサーを外す。
スピードセンサーの製造メーカーは二社あり、応じて品番も二つ設定されている。パーツリスト上でも、二種類のセンサーが描写されていることについて、過去に当blogで記事にした
。
地味に困るのが、両社共に対応している点。現車に装着されている使い古したセンサーと同一メーカーを選ぶことにして、デンソー製をチョイス。
ストックし続けて、いよいよ装着する日がやってきた。固定用のボルトも同時に交換している。交換後、スピードメーターの針が振れることはなくなり、しっかりとした動きに戻った。
| 7. | 78410-S04-911 | センサーASSY.,スピード(DENSO) | 8,478円 | 1個 | ※1 |
| 14. | 95701-06025-08 | ボルト,フランジ 6X25 | 43円 | 1個 | |
| ※1 2016年11月価格 | |||||
〆
交換作業後、一発目のエンジン始動。エンジンやミッションが完全に冷え切った状態からエンジンをかけると、キュルキュル音がより大きくなり、うんざりした感覚を抱いていたが、異音がすっかり無くなって、静かなエンジン音だけが響いていた。「こんなに静かだったのか!」と口にしたほどだ。
摺動部分がグリスアップされたことで、潤滑性能が復活。クラッチペダルがとても軽くなり、スムーズに踏み込めるようになった。異音の発生に伴い、気づかないうちに少しずつ重い踏み込みになっていたようで、本来の軽さに驚かされることになった。なお、レリーズベアリングが馴染むまでは、慣らし運転としてクラッチペダルはゆっくりと扱うことになる。
走行距離:283,277km