いつのころからか、シフトチェンジがスムーズではなくなった。シフトレバーが奥まで入りにくくなり、スライドも若干渋い。停止中ならクラッチペダルを一旦踏み直す、走行中なら古いバスのようにダブルクラッチをやって、シフトチェンジを行うようになっていた。ここまで来ると、さすがに疲弊していることは否めない。
エンジン回転数が高い領域での素早いシフトチェンジは数多く、距離も重ね続け196,000kmを走破した。製造から16年が経過し、新品部品の手配が怪しくなり始めていることから、リフレッシュは今しかない…ということで、ミッションとクラッチのオーバーホールを決意した。
いよいよ開けるのか…としみじみ思うS4C型ミッション。
プライベートでオーバーホールするスキル、場所、時間がないので、ショップへ依頼した。部品の手配や見積もりを相談していたのが2014年3月、7月に正式に依頼、そしてオーバーホール実行が8月末…と、準備期間は5ヶ月にもなった。
相談中に「手配に時間がかかる部品があった」というネガティブな情報を受け取り、それを逆手にオーバーホールする時期を決める。そうすれば、実行日までには十分な日数を確保できて、部品が揃えられる…という考えだった。作業を依頼するにあたり、自分の走り方や考えをしっかり伝え、納得のいく内容を組み立てる。
ギア比を変更しよう
1~4速までのギア比は純正を維持、5速のみDC2インテRの0.787をチョイスした。ファイナルは4.400のままで、流用チューンでおなじみ、DC2インテR(98Spec.R)のファイナル…4.785は使わなかった。
あくまで街乗りが主体で、5速での巡航時に少しでもエンジン回転数を下げて、静かに走りたいことが目的だ。年に数回のサーキット走行では、使用するのは2~4速。走り方やウデを考えれば、現状の加速力に不満はなく、特に変えたいとは思わなかった。
ミッションケースやデフ一式以外、ほとんど新品パーツに交換。別紙として用意してくれたリストには、合計50ものパーツが羅列されていた。街乗り主体なので、デフは純正(ヘリカルLSD)のままで変更なし。
5速ギア比の変更に伴う、各回転数における変化具合。
グラフから判別できるように、日本国内法定速度領域ならば、実は殆ど変化がない。60km/hで2,000rpmから1,850rpm、90km/hでは3,000rpmから2,780rpmと、若干の低下に留まる。
この程度では燃費の向上は微々たるもので、むしろ最も心配されるのが5速で緩い上り坂を走るシーン。状況によっては、少々運転しにくい場面が出るかもしれないが、こればかりは割り切っておく。
ファイナルはそのまま、5速を0.787にアップさせると、最高速度は上がることになる。5速でアクセル全開、車体に掛かる全抵抗とエンジンの全出力がバランスし、それ以上速度が伸びない(いわゆる均衡速度)状態は、エンジン回転数が7,000rpm前後で頭打ちだった経験から、0.848のギアで210km/hほどだ。このことを踏まえて、0.787ギアでの計算上の最高速度は227km/hとなる。
| 23581-P80-V00 | ギヤー,メインシャフトフィフス | 7,450円 | 1個 |
| 23461-P80-V00 | ギヤー,カウンターシャフトフィフス | 4,420円 | 1個 |
| その他 | T/Mパーツ合計概算 | 164,310円 | 一式 |
| その他 | T/Mショートパーツ | 1,800円 | 一式 |
ギア比の変更は、上記DC2インテR(98Spec.R)用5速ギアを純正5速ギアへ単純に入れ替えるだけでなく、他にも必要なパーツは多数あるので、これだけで成立するわけではない。
クラッチ周辺
エンジンはノーマルで、現状で不満は一切ないのだから、強化する理由はなし。下手に圧着力を強めてしまうと、その負荷はエンジン内のクランクシャフト、特にスラストメタルの片減りに繋がって、ガタつきの原因になってしまう。クランクシャフトがガタついてしまうと、エンジンブロックへの大ダメージだけでなく、クランクメタルやコンロッドメタルが削れ、ブローの原因になることも…。
かつてはDC2インテRのクラッチ一式を使い、若干の強化を図るという定番の流用があったが、現在は部品統合で共通化されたため、不可能となった。
フライホイールも、やはり純正を使う。軽量フライホイールは吹け上がりやレスポンスの良さが光るが、その軽さゆえに、はずみ車、制振装置としての役割を果たせなくなることから、妙な共振音や振動が増えることがある。かつて乗っていたDC2インテRは軽量フライホイールを装着しており、バイク並みの吹け上がりとなっていたが、共振音や振動は確かにあった。この異変は、クランクシャフトそのものが異常振動を起こしている悲鳴だった。
長期的な視点では、異常振動=メタルを傷める可能性が増す→エンジンの寿命を縮めることにもなってしまう。はずみ車として使えなくなれば、極低回転領域での滑らかさがなくなってエンストしやすくなるので、アクセルペダル、クラッチペダルの操作がシビアになってしまう。
月を目指す(384,400km)という超長距離ランナーだからこそ、ダメージや破損の原因は出来る限り除外できる、最も無難なモノ(=純正)を選ぶ。
取り外され、役目を終えたクラッチ一式。この部分は、ファッション感覚で変えてはならないパーツではないだろうか。その車に設定されたクラッチの圧着力、フライホイールの重量には、重要な意味が必ず含まれている。
クラッチマスターシリンダーとスレーブシリンダー、油圧ホース、レリーズフォークを覆うシフトブーツまで新品に交換。
| 22100-P73-005 | フライホイールCOMP. | 22,900円 | 1個 |
| 22200-P2T-025 | ディスクCOMP.,フリクション | 11,800円 | 1個 |
| 22300-P73-005 | ディスクCOMP.,プレッシャー | 16,600円 | 1個 |
| 22810-P21-003 | ベアリング,クラッチレリーズ(フジコシ) | 3,710円 | 1個 |
| 22821-P80-010 | フォーク,クラッチレリーズ | 1,600円 | 1個 |
| 22825-P0S-000 | ボルト,レリーズフォーク | 390円 | 1個 |
| 22835-P80-000 | スプリング,クラッチレリーズセッティング | 230円 | 1個 |
| 22841-P20-000 | ブーツ,レリーズフォーク | 766円 | 1個 |
| 46920-SR3-013 | シリンダーASSY.,クラッチマスター | 9,558円 | 1個 |
| 46930-SR3-013 | シリンダーASSY.,スレーブ | 5,886円 | 1個 |
| 46961-S04-003 | ホース,クラッチ(HIGH EXPANSION) | 2,948円 | 1個 |
| 46971-S04-003 | チューブ,クラッチフルード | 972円 | 1個 |
| 95002-4120004 | クランプ,チューブ(D12) | 108円@54円 | 2個 |
| 46928-SF1-000 | シール,クラッチマスターシリンダー | 216円 | 1個 |
| 94201-20220 | ピン,スプリット 2.0X22 | 32円 | 1個 |
| 90011-PH3-000 | ボルト,フランジ 12MM | 1,440円@180円 | 8個 |
| 90034-689-000 | ボルト,12ポイント 8MM | 1,200円@200円 | 6個 |
| 91006-634-008 | ベアリング,クラッチパイロット(NTN) | 710円 | 1個 |
その他
シフトフィーリングの向上策として、シフトチェンジレバーに、SPOONの強化チェンジロッドを使用。シフトリンケージブッシュは純正新品を使用。社外品のハードタイプは、共振音がやかましいことから使わなかった。
純正では経年劣化で、写真のコの字部分が開くようだが、板を一枚追加することで開きを防いでいる。単体で見ると、けっこう大きく、重い。鈍器のような威圧感さえある。
| 54201-EK9-G00 | [SPOON] CHANGE ROD,EK4/9 | 12,600円 | 1個 |
| 54303-SB2-010 | ラバー,エクステンションエンド | 529円 | 1個 |
| 54306-Sh3-000 | ラバー,エクステンションマウンティング | 658円 | 1個 |
| 08261-99964 | ウルトラMTF-III | 4,282円 | 1個 |
| 08203-99931 | ウルトラBF DOT4 | 1,962円 | 1個 |
作業(入院)期間は一週間。期間中にお借りした代車が、これまた強烈で…。前後異径タイヤ、強烈なキャンバー、機械式LSD、車高調…などなど。今後のシビックRの方向性が、より明確に定まることになる、いい経験となった。
総走行距離196,000kmを支えた部品たち
作業が完了し、いよいよ退院。お待ちかね、消耗部品のチェックコーナー。
山が潰れたリバースギア。最も多かったトラブルとして、リバースに入らないという症状だ。このギアとアイドラーギアの山同士がぶつかってしまい、入らなくなっていたらしい。バックするときは、完全にタイヤの回転を止めてからリバースに入れないと、このようにして歯が欠けてしまうことになる。
スムーズなシフトチェンジができなかった原因は、それぞれのシンクロが傷んでいたため。街乗りがメインで、サーキット走行は極端に少ないことから、重ね続けた総走行距離によるダメージだった。損傷状態からして、オーバーホールするタイミングとしては、ちょうど良かったとのこと。
シフトフォーク。ミッション内部にこの部品が三つ存在する。それぞれに大きな変形はなかったものの、スリーブとの接触でカジったような傷が発見された。表面から剥がれ落ちるようにして摩耗してしまうことから、全て交換となった。ストッパーボールの窪みには大きな傷はなく、丁寧なシフトチェンジができていたことが証明された。
スリーブと実際にかみ合うギアのスプライン部。頂点が削れてしまい、本来なら尖っている山がなだらかになっている。引っかかるようなフィーリングになってしまうのは、スリーブとギアのスプライン部がスムーズに噛み合わないことによるもの。
真鍮でできたシンクロナイザリングの内側は、ギア本体との接触強化と油膜を保持するための細かい溝が形成されていた。摩耗することで回転を同期させる部品なのでとても柔らかく、いじっているだけで真鍮の粉が舞い落ちるほど。
196,000kmを支えたクラッチディスクの残量は、限界まであと0.5~1mmほど。運転環境やドライバーの技量に大きく左右される部分で、この距離でこの残量なら、十分すぎるほど耐えたとのこと。
目安として、サーキット走行が多かったり、渋滞ばかりの街乗り走行ならあっという間に摩耗し、逆なら寿命は延びる。このシビックRは街乗り主体の買い物車ながらも、渋滞に引っかかることは少なく、シフトチェンジの際はクラッチペダルをしっかりと踏み込んでいたことが、功を奏したようだ。
クラッチが滑る症状は、振り返ってみればサーキットや峠など、高負荷のドライブを長時間続けていたときに起きていたことから、ただのフェード現象だった。確実な操作を続けることが、寿命、さらには修繕費用を抑えることに繋がることが分かった。
クラッチカバーのディスク接触面には、触れると凹みが感じられる傷が全周に渡って存在していた。均等ではない接触で偏摩耗を起こし、局所的な高熱で歪んでしまう熱変形だろう。
〆
オーバーホールが完了し、ショップを出発。クラッチの操作は全く変わらず、むしろ異音が消えて気分がいい。
組まれたギアそれぞれはまだ馴染んでいないのか、若干の渋さを感じるシーンはあるものの、概ねスムーズなシフトチェンジが決まる。ギアチェンジの際は、シフトレバーがポジションに吸い込まれるようなフィーリングを感じることができた。
ミッション内部、クラッチそれぞれが新品となっていることから、大事を取って1,500kmは慣らし運転状態となり、積極的なシフトチェンジでパーツたちを馴染ませていく。このため、500km毎にミッションオイルの交換となるが、長寿命なミッションを作り上げるには、欠かせない儀式だ。
今回のオーバーホール最大のポイントは、5速ギアを0.848から0.787にアップしたこと。冒頭に日本国内法定速度領域なら殆ど変化はないと書いたが、体感的なものは全くの別物。とにかく静かで、3,000rpm以下で巡航できれば、音による疲労感がかなり低減されることが早くも分かった。
●シフトとクラッチのフィーリング変化
強化チェンジロッドと新品純正のシフトリンケージブッシュに交換したことで、カチカチと節度あるシフトフィーリングに変化した。社外品の強化シフトリンケージブッシュには及ばないものの、フニャフニャとした締まりのないフィーリングが消えたので、気持ちよくシフトチェンジが決まる。
クラッチを操作する部品全てが新品になったためか、クラッチペダルが軽くなり、脚の疲労感低減に繋がっている。クラッチペダルを完全に踏み込んだ状態から少し浮かせるだけで、本来の奥まった位置でミートが始まることから、確実なペダル操作が必須となった。今までのような軽く踏み込んだ程度の操作では、寿命の観点からも絶対に避けたいところ。
●勾配区間の変化
5速のままでは、明らかに走破しにくくなっている。懸念どおりの変化で、実質折込済み。積極的に4速へシフトダウンし、エンジンの回転数を高く保つほうが走りやすい。ホンダがEK4シビックSiR(II)と同一のギア比に設定した理由が、なんとなく想像できた。コスト関係以外にも、1600ccという排気量のエンジンでは、低回転でのトルクがスカスカになって走りにくくなってしまうため、ある程度高い回転数になるようにしていたのかもしれない。
●燃費
高速道路(普段から最高90km/h)、峠区間多数(最高標高2127m)、快走の市街地、渋滞の市街地という様々な条件がある中で530.9km走り、給油量は30.5L。満タン法での燃費数値は17.4km/Lという、かなりの好成績が出た。
峠区間では誰もいないことをいいことに、スローインファストアウトを意識して2速から4速を満遍なく使うやんちゃな走り方を繰り返し、エンジンを高回転で保つような運転方法を続けていたにも関わらずだ。
高速道路を90km/hで巡航していたことが大きく影響しているらしく、エンジンの回転数を僅かに下げるだけで、ここまで燃費が向上するとは完全に予想外だった。写真のように、省燃費を意識しない走り方でも二目盛り分のガスが残っており、運転方法と道路状況によっては600km以上を走りぬくことも期待できる。
高速道路で長距離走行を行うことが多く、使い方とギア比がベストマッチしたセッティングとなった。また、街乗り燃費においても10km/L台から、12km/L台に向上した。5速ギアの使い方が、燃費を大きく左右するようだ。
走行距離:196,064km