概況
2024年5月9日、買い出し運用が終わって荷物を積載しようとしたところ、運転席側レカロシートの背もたれが前倒しできないことが判明した。
着座そのものは可能で、リクライニングダイヤルによる角度調整も問題なく行えたため、本格的な調査は後日とした。
調査
シートの側面にあるドア側の前倒しレバー【写真1参照】を操作しても、関節部分のロック機構が動かず、背もたれが前倒しにできない。
写真1:シート側面の前倒しレバー、ドア側
シート側面の前倒しレバーは車内側にも装備されており、こちら側を操作すると関節部分のロック機構が動くことが判明した。【写真2、写真3参照】
写真2:シート側面の前倒しレバー、車内側。
写真3:シート関節部分、車内側のロック機構は動作。
以上の調査から、運転席側レカロシートのドア側の前倒しレバーから関節部分のロック機構を繋ぐところで、問題が起きていると判断した。
過去事例から追加調査
レカロシートのモデルとしてはSR-3という比較的古いモデルになり、経過年数から同様のトラブルが発生している可能性がある。ネットを調査して、参考となる事例が2点見つかる。
参考事例1:レカロSR-3 前倒しワイヤー修理![]()
参考事例2:レカロ is84 SR3 C120 ルマン 前倒しワイヤー破断+メンテナンス+フロアーネジ交換 日産 R33 GT-R![]()
いずれもSR-3で、同じく前倒しできなくなっている。さらにワイヤーが破断しているという共通点から、現車でも操作ワイヤーの破断が疑われる。関節部分を再調査したところ、ワイヤーの破断面を発見。【写真4参照】
写真4:ワイヤーの破断面。
2017年9月30日に行っていた内部ウレタンの交換作業において、作業記録用に撮影していた写真の中に、操作ワイヤーが僅かに写されていた。【写真5参照】
写真5:赤丸内の銀色の直線がワイヤー。
参考事例と現車の状況から、前倒しレバーと関節部分のロック機構を結ぶワイヤーが破断し、ロック機構が解除できなくなったために、前倒し操作ができなくなったと断定した。
交換用部品について
パーツカタログを参照したところ、ワイヤー単体の部品供給は行われておらず、フレームとウレタンパッドでコンプリート化されたものなら部品番号が設定されており、在庫があれば購入できる。【図1参照】
図1:純正レカロシートのパーツカタログ。図中4番と21番がフレームとウレタンパッドでコンプリート化された部品。今回、問題となっているワイヤーも含まれている。
在庫があって購入できたとして、その価格は10万円を超える。よって手元で保管してある、部品取りのレカロシートからワイヤーを取り出し、移植する。【写真6参照】
写真6:取り出した移植用のワイヤー。
ワイヤー本体は約49cmの長さがあり、両先端の連結金具はシンプルなクランク状となっている。よって自転車用のブレーキワイヤーを転用して作成するといった解決策が考えられる。
ワイヤーの交換と原因調査
背もたれ部分の取り外し、分解方法については、2017年9月30日のレカロシートリフレッシュ作業のレポート
を参照のこと。
シートモケットを剥いでウレタンパッドを外し、ワイヤーの破断箇所と原因をチェックする。【写真7参照】
写真7:ワイヤーの破断箇所。
破断したワイヤーをチェックすると、ワイヤーのコアである心綱を覆うストランド部分が解けるようにして切れており、心綱も切断している。【写真8参照】
写真8:ワイヤーの破断状況。
破断していない反対側を確認すると、グリス由来の粘着感が残っていた。また、ワイヤー本体の毛羽立ちや屈折は見当たらなかった。【写真9参照】
写真9:破断していないワイヤーの状況。
クレーン等の荷役作業のような荷重は掛からない部分とはいえ、なぜ切れてしまったのか。
破断原因は油膜切れ
セミバケットシートであるレカロSR-3は、前倒しレバーと背もたれの関節部分にあるロック機構はワイヤーで繋がっている。このワイヤー本体は背もたれ内部では覆われておらず、さらにワイヤーガイドはシートの鉄フレームに開けられた穴となっている。【写真10参照】
写真10:ワイヤーガイドはフレームの穴。
現車では、切れていない反対側でグリス由来の粘着感が残っていて、ワイヤーとフレームが直接擦れることのないようになっていたが、破断側は乾燥した状態になっていた。製造から25年が経過するうちに油膜が失われたことで、フレームのエッジ部分でストランド部分が削られて切断、最後は心綱が破断したと考えられる。
フレームの穴以外だけでなく、補強の折り目部分でも、ワイヤーとフレームが直接接触していたパターンを確認。【写真11参照】
写真11:折り目部分に乗り上げてワイヤーが接触。
こちらはグリスは塗布されていない。しかし、現車のシートでは折り目にワイヤーが乗り上げておらず、部品取りのシートでは乗り上げていたことから、シート本体の個体差と考えられる。
ワイヤーをカバーする
ワイヤーがフレームの穴と直接接触して、破断する可能性がある以上は、単純に交換するのではなく対策を施す。内径4mmのシリコンチューブにワイヤーを通してカバーすることで、フレームとワイヤーが直接接触しにくくする。【写真12参照】
写真12:シリコンチューブでワイヤーをカバー。
フレーム、シリコンチューブ、ワイヤーそれぞれに十分なグリスを塗布し、油膜切れまでの時間をできるだけ稼ぐように配慮している。破断していないワイヤーに関しても、一度取り外してシリコンチューブによるカバーを施している。
カバー装着はあくまでフレームのワイヤーガイド周辺に留めており、前倒しレバー部分までは施さなかった。【写真13参照】
写真13:レバー部分は未施工、ワイヤー脱着の参考にも。
動作確認
分解していた背もたれを組み立て直して車内へ戻し、前倒しレバーを操作して前倒しができることを確認…良好。背もたれの前倒し機能が正常復帰したことを確認し、作業完了とした。【写真14参照】
写真14:背もたれは正常に前へ倒れる。
シリコンチューブによるカバーは、前倒し機能の妨げやロック機構への干渉もないことを確認した。【写真15、16参照】
写真15:元破断側、シリコンチューブのカバーは僅かに見える。
写真16:破断する前にカバーすることで耐久性を向上。
〆
背もたれが前倒しできない問題は、買い物車としての日常に著しく支障を来す。
普段から運転席の後ろに荷物を置くことが多く、前倒しができないとトランクや助手席側後ろに荷物を置くことになり、その少々の手間が面倒だった。3ドア車特有の使いにくさがより強調されてしまうためだろう。
部品取りシートや現車から取り外した未破断のワイヤーは、フレームの穴を通っていた部分に僅かな曲げ癖が生じていた。【写真17参照】
写真17:ワイヤーに生じている曲げ癖。
シリコンチューブのカバーを装着したとはいえ、破断リスクはより下げたいもの。そこで前倒しレバー側のストレスが掛かっていない部分を関節部分のロック機構方面に入れ替える『一粒で二度おいしい』作戦とした。
毎日の運用により、内部ウレタンの崩壊が再び始まっている。もともと中古のウレタンを使っている以上、老朽化は避けられない。
走行距離:378,158km