ラジエターの裏側には電動ファンが装着されている。長時間のアイドリングや渋滞の中などで、走行風を取り入れることができなくなって水温が高くなりすぎたとき、ラジエターの裏側にあるファンが動作し、冷却水を冷やす。
説明書上で、何らかの原因でオーバーヒートしたときは、ボンネットを開いて『冷却ファンの動作を確認』と記載されているほどで、非常に重要なパーツ、ある意味ではエンジンを壊さないようにするための防衛線となっている。
命綱的なファンを動かすモーターについて、「ずいぶん音が大きい」「状態はあまり良くない」と言われるようになった。道路上で動けなくなることは絶対に避けたいことから、ファンモーターが壊れてしまう前に、交換することにした。
与太話、グレードで異なるファン
部品取りのために、通常グレード(EK3 VTi)のファンモーターセットを入手したことがあり、ここでグレードの違いを見ることができた。
EK9では、船舶でいうところの『スキュー型プロペラ』。先端が弓なりに曲げられている。
部品取りとして入手したEK3用になると、形状が変わって『普通型プロペラ』となる。
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やはり船舶の話になるが、スキュー型プロペラを使うことで、振動や騒音が低減する特長がある。弓なりの曲げをさらに高めたのがハイスキュープロペラで、有名な使いどころとして潜水艦。海中に音もなく潜み続ける潜水艦は、プロペラからの振動と騒音が相手に位置を知らせてしまう恐れがあり、ハイスキュープロペラを使って騒音を抑えている。また、その形状は機密事項となっている。
転じて、これら二つの形状のラジエターファンについて。EK3用のファンは、動作するとババババ…という擬音がぴったりの、独特の大きな音を発しながら回る。対し、EK9のファンであれば、スキュー型由来の低振動低騒音効果もあって、ブーン…という一定の低い音が鳴る。
なぜ、グレードによってファンの形状を変えているのか。エンジンの排気量、出力、ミッションに応じて細かく設定していた、騒音や効率の悪さを割り切って、その代わりシンプルな形状で安くしてグレードの低価格化を実現した等が考えられるが、今では調べようがない。EK3でもスキュー型のファンを使っている場合もあるようで、余計分からなくなる。
交換…しかし
本筋に戻って、ラジエターファンモーターの交換作業をスタート。
ラジエターファンが装着されているシュラウドは、純正ラジエターであれば上部の二本のボルトで固定されている。下部はロアタンクから出ているツメに差込まれている。
冷却水のリザーブタンクは、上に引き抜けばブラケットから外れる。ホースは外さずにエンジンヘッドの横に突っ込んでおき、邪魔にならないようにしておく。
モーターの電源カプラを外して、あとはラジエターから抜き取るだけ…。と思っていた。このときは。
上に引っ張り出そうとしても、アッパーホースが邪魔で動かせず、かといって下方ならどうか。今度はクラッチレリーズシリンダーがモーターに引っかかって抜き出せない。どうしようか考えて。
エキマニの遮熱板まで外し、シュラウド(ファンモーターを装着する部分)を向かって右側に動かせるようにして、広がった隙間からファンやモーターを一つひとつ取り出し、交換作業を行った。
隙間からファンモーターを取り付ける
各パーツを個別に装着することになり、まずはモーターの下準備。
モーターの軸には、トロイダルコアのようなスペーサーをセットする。取り外した古いモーターから移植するか、新品を装着する。
シュラウドにモーターを組み込む。モーターから出ているハーネスは、地面側を向くようにする。
シュラウドを動かしたとき、何らかの拍子でモーターが転げ落ちると、ラジエターと衝突してフィンを派手に曲げてしまう恐れがあるため、すぐにモーターを固定する。シュラウドにモーターを取り付けるネジは三本で、最低一本でも仮止めしておけば、落下トラブルは防げる。
シュラウドの穴は僅かな「遊び」があるので、三本の固定ネジをバランスよく均等に締めていく。
ファンをシュラウド内に収めていく。
モーターの軸はDカットされており、対するファンもDカットに応じた固定座が組み込まれているので、正しい位置に装着できるようになっている。
ファンとモーターの装着はこれでOK。
ハーネスをシュラウドに取り付けていく。
モーターの電源カプラを台座に装着し、ファンモーターを組み込んだシュラウド一式をラジエターに装着する。
車体からの電源ハーネスを接続、冷却水のリザーブタンクを元に戻せば、ファンモーター部分の交換作業は終了。なお、交換のためにファンモーターを取り外す手順は、ここまでの逆の流れ、つまり当部分から上に向かって読んでいく。
パワーリレーの交換
続いて、ファンモーターを動作させるパワーリレーを交換する。サーモスイッチで水温上昇を検知すると、リレーが動作してファンモーターへ電力が供給されるようになっている。構造上、大電流が流れる部分で、繰り返し動作することによるスパークや焼けを考慮し、予防保全として交換する。
パワーリレーは、エンジンルームのリレーボックス内部にある。ただ単に刺さっているだけなので、引っ張れば抜き取ることができて、装着は押し込むだけ。
取り外したパワーリレーは、プラスチックの外装を剥がすようにして外し内部のチェックを行う。
可動接点側は少々の焼けが起きているが、接点部分での損傷に留まっている。対する固定接点には損傷がなく、全体としてはまだ使えそうな状態だった。価格は1,000円程度なので、電装系のリフレッシュとしては安価で済む。
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| 13. | 90041-PG6-004 | ナット,6カク5MM(ミツバ) | 113円 | 1個 | ※1 |
| 15. | 90050-PK1-004 | スクリューワッシャー 4X12 | 324円@108円 | 3個 | |
| 16. | 90403-P5M-004 | スペーサー,ファン | 178円 | 1個 | |
| 17. | 19030-P2A-024 | モーター,クーリングファン | 22,248円 | 1個 | |
| 39794-S04-003 | リレーASSY.,パワー | 1,285円 | 1個 | ||
| ※1:全て2019年6月末価格 | |||||
動作テスト
ファンモーターやパワーリレーを交換したら、さっそく動作テスト。エンジンが冷えた状態からスタートし、ファンが動くまではかなりの時間がかかる。
サービスマニュアル上の公式データでは、ファンモーターの動作温度は91~95℃と幅がある。交換当日は気温が高かったが強風で、なかなか水温が上がらない。
ひたすら待ち続けて水温が93℃になったが、まだファンは回らず。
20分近く経過して95℃に達し、ようやくファンが動作した。水温上昇→ファン動作→水温低下→ファン停止というプロセスを最低二回は繰り返し、確実に動作することを確認してから、全ての作業が完了となる。
分解調査
ファンモーターの動作テスト中、交換前と比べても静かになっていることに気づいた。ということは、取り外したモーターは何かしらの異常を抱えていたことになり、調査のためにさっそく分解する。
これまたミニ四駆や電動RCカーでお馴染みの、直流のブラシモーター。左側の、緑色のローターが一部削られ、銀色の地が見えているが、回転バランスの調整によるもの。
モーター内部には、ブラシとコミュテーター由来の粉塵が大量に詰まっている。写真内の黒い小さな粒がそれで、ある程度エアブローしても、次から次に散らばってくる。分解すると、この粉塵が大量に散らかるので、カーペットの上などの室内では絶対に分解しないこと。布の繊維に入り込むと、洗濯しても取れなくなる。
ブラシのメーカー刻印に達したあたりを寿命と考えれば、残量は十分にある。走行時のファンは風車状態で回り続け、単純な接触による摩耗を含めても、ブラシを使い切ってモーターがダメになることはなさそうだ。ブラシホルダーの奥にある軸受けはすべり軸受けで、軸と合わせてみるとガリガリの感触。
モーターカン側は汎用のボールベアリングで、小径ボールベアリング名門のミネベアミツミ(NMB)製。608と呼ばれる汎用ベアリングで、Zが割り振られているので片側シールドタイプに分類される。
触れてみると、妙にゴリゴリとした感触があった。つまり、ローターの前後を支える二つのベアリングに異常が起きており、それが異音として聞こえていたことになる。新品と比べて初めて気づくその異音は、普段は聞き慣れているゆえにまず気づかない。それを一瞬で聞き取り、「音が大きい」と異常を口にしたメカニックの凄さ。
ブラシとコミュテーターの接触状態をチェック。燃料ポンプのローターと同様、コミュテーターがよく削れている。接触面は均等に減らず、樽状に削れている点から、僅かな軸のブレや構成部品の歪みといったストレスを抱えていたのかもしれない。それが前後のベアリングの正常な回転を妨げられ、油膜切れからの焼き付き、異音…と繋がれば、納得できる。
ローターに巻かれていたコイルも分解してみて、巻き数や結線状態も調べておく。ローターがバラバラにならないよう、塗装が厚塗りされていたが、経年でひび割れを起こしていた。
〆
ファンモーターの異音を告げられたのはだいぶ前で、それから新品モーターを手配して、いつでも交換できるようにスタンバイしていた。交換するなら、30万キロを越えたほうがキリがよく、交換日まで無事に走りぬくことができた。
EK9用のファンとEK3用のファンの形状の違いについて、特性や設計背景を調べるために船舶関係のWebサイトを渡り歩くことになった。プロペラの形状、設計や理論は、短時間で理解できるようなものではなかった。上手に設計されているプロペラは「静か」「高効率」となるが、その逆であれば「うるさい」「低効率」となってしまうそうだ。なにも船舶だけではなく、飛行機、扇風機までに当てはまるから非常に奥深い。
燃料ポンプに引き続き、今回もモーターの分解を行っていた。実のところ、作業本筋よりも、関連資料調査(ここではプロペラの特性)や分解調査のほうが面白かったりする。損傷した部品をバラすことで、中身の構造や寿命といったデータを得ることができる。素人だからこそ、こういった機会を存分に活かして、ひたすら勉強となる。
走行距離:301,049km