エンジンルーム内のハーネスにおいて、最も目に付くのがボロボロになったアースケーブルだ。回路としては成立しているが、この先もノントラブルという保障は無く、電装系は後手に回っていた背景から、さっそくリフレッシュを行うことになった。まずは現状把握から。

ヘッドカバーとバルクヘッドアッパーフレーム間のアース

エンジンヘッドカバーからバルクヘッドアッパーフレーム(ラジエターコアサポート)間のアースライン。サービスマニュアル上では『エンジンアースケーブルA』と名称が設定されている。銅製のケーブルだけあって、長年に渡って空気に触れていた影響から、古い10円硬貨と同じ色に変わり果てている。

説明書の記載では、バッテリー上がりの際、救援されるときにブースターケーブルを接続する端子が、バルクヘッドアッパーフレームのボルトとなっている。バッテリーのマイナス端子に接続しても救援回路は成り立つが、バッテリーから放出される水素で爆発を回避するための措置だ。

ミッションとフロントサイドフレーム間のアース

ミッションからフロントサイドフレーム間にもアースラインがあり、フロントノーズ側からミッションを覗き込むようにして点検すると、アースケーブルの圧着端子が見える。ミッションアースと通称する部分だが、正式名称は『エンジンアースケーブルB』となる。こちらは空気に晒されるだけでなくミッションの熱も受けるため、劣化具合はより酷くなっており、写真では分からないが緑青(=錆)が発生していた。

ダンパーハウジングとバッテリー間のアース

ダンパーハウジングからバッテリーのマイナス端子へ接続するアースライン。正式名称は『バッテリアースケーブル』となる。エンジンが止まっていた場合、バッテリーからの電気は機器を巡った後にボディを経由し、最終的にこのケーブルを通じて、バッテリーへ戻る仕組みとなっている。

現状把握から、必要な部品をリストアップして発注。一部パーツはホンダの他車種から流用することにして、無事に部品が揃ったところで、作業を開始する。

交換・エンジンアースケーブルA編

エンジンヘッドとバルクヘッドアッパーフレームを接続するアースラインは、ケーブルの圧着端子を固定しているボルト二本を外せば、すぐに交換することができる。ここはNシリーズ…恐らくN-WGN用の純正品を使用した。

32610-T4R-J00をEK9に装着したところ

32610-T4R-J00 ケーブル,サブアースは長さに余裕があるので、EK9純正のアースラインと同様の取り回しが可能となる。

GRフィット用のアースケーブル

32610-T4R-J00を使う場合は、端子先端の回り止めのツメを切断しておく。曲げ加工はノータッチで、このまま活用する。

ワッシャーに沿って避けてくれる

ヘッドカバーに装着すると、曲げ加工部分が自然とワッシャーに沿う。写真右下の未使用のネジ穴は、導通が取れない絶縁構造となっているので接続しないこと。

ラジエターコアサポート側端子も加工

ラジエターコアサポート側の端子も、回り止めのツメを切断する。こちらも曲げ加工はノータッチでOK。

   32610-T4R-J00  ケーブル,サブアース  737円  1個
18.  90153-SE0-003  ボルト,アース 6X12  172円  1個
   93403-0601208  ボルトワッシャー,6X12  43円  1個

交換・エンジンアースケーブルB編

続いて、ミッションアースこと、エンジンアースケーブルBの交換となる。こちらはエアクリーナーケースを取り外すことからスタートする。

エアクリーナーケースの固定部分その1

エアクリーナーケースは計3箇所で車体に固定されており、まずは赤丸で示した2本のボルトを外す。

エアクリーナーケースの固定部分その2

3箇所目はエアクリーナーケースと冷却水のリザーブタンクの隙間から見える、ゴムマウント。少しずつ力を加えて引いていくと、ゴムが変形しながら抜けてくるが、強く引っ張るとエアクリーナーケースの爪が割れてしまうので注意。

姿を見せたミッションアース

エアクリーナーケースが外れると、エンジンアースケーブルBが姿を現す。ミッションケース側の裸部分においては、緑青に包み込まれている様子がハッキリと写っている。

古いエンジンアースケーブルBを外したら、すぐに新品に交換するのではなく、まずは周辺の清掃から行う。場所柄、油分や粉塵が蓄積しやすく、ねじ穴に異物が噛み込んでしまえばねじ山を潰す可能性があり、導通不良の原因にもなりうるからだ。修理、メンテナンスの基本は、丁寧な掃除から。

新品のミッションアース

エンジンアースケーブルBは、GRフィットの純正品を使用した。e:HEV用のアースラインなので、より太い導線が使われている。上がRBオデッセイ用で、以前まで流用装着していたもの。下が使用するGRフィット用。RBオデッセイ用に比べ長さと柔軟性それぞれに余裕があり、エンジンの大きな振れにも耐えられる。

   32601-TZB-J00  ケーブルASSY.,ミッションアース  1,155円  1個
18.  90153-SE0-003  ボルト,アース 6X12  172円  1個
25.  92000-0600808  ボルト,6カク 6X8  32円  1個

端子の加工その1

GRフィットのアースケーブルはそのままでは装着できず、小加工が必要になる。まずはミッションと接続する小端子側。回り止めのツメを切断し、反った端子を平らに曲げておく。

端子の加工その2

フレームと接続する大端子側はエビ反り状態なので、こちらも平らに曲げる(写真は加工前)。回り止めのツメはEKシビックと位置が同じなので、切らないで使用する。

装着したところ

加工を施したGRフィットのミッションアースケーブルを装着。小端子側は、カシメ部分がクラッチパイプに接触しないよう、ケーブル全体を少しずつ反転させて接続している。

交換・バッテリアースケーブル編

ダンパーハウジングというより、ボディ本体とバッテリーを接続する唯一のアースラインは、発注した時点では欠品で入手できず。そこでケーブル長が近いAP1/2 S2000用の純正アースケーブルを手配し、流用して使うことにした。

S2000用バッテリアースケーブル

AP1/2用の純正アースケーブル。現車のアースケーブルは、装着部分に合わせて圧着端子が僅かばかり曲げられているが、こちらは平らな状態。装着前に、現物合わせで曲げ加工を施す。

バッテリアースケーブルを外す

赤丸内のボディ(ダンパーハウジング)側のボルトを外し、バッテリー端子のナットを緩める。そしてリング状のケーブル通しを外すと、古いケーブルを取り外すことができる。

バッテリアースケーブルの比較

上がAP1/2 S2000用の純正バッテリアースケーブル、下が取り外したEK9シビックR用の純正バッテリアースケーブル。右側のバッテリー端子側を基準に比較すると、AP1/2 S2000用のケーブルは少々短いが、問題なく装着可能。ケーブル本体は、より太くなっている。

AP1/2用バッテリアースケーブルを装着したところ

こうして装着した、新しいバッテリアースケーブル。バッテリー端子側のターミナルの形状が大きく変わり、後付のマイナスケーブルを装着している場合、取り回しに若干の困難が生じる恐れがあるのが、地味な欠点か。

   32600-S2A-000  ケーブルASSY.,バッテリーアース  1,426円  1個
14.  90153-SE0-003  ボルト,アース 6X12  172円  1個

新旧アースボルトの比較

以上、3本のアースケーブルの交換においては、ボルトも全て新品に交換している。特に90153-SE0-003 ボルト,アース 6X12はただのボルトではなく、写真のようにねじ部に切欠きと突起が成形されており、これでねじ穴の塗装を剥がし、導通を確保する仕組みになっている。

長年に渡って装着された状態が続いたことで、ねじ山には粉塵が固着しており、取り外し時には異物を巻き込みながら回転したことで、ねじ山が潰れてしまっている(写真左)。写真右の新品と比べると、その差は歴然。ねじ山が潰れたボルトを再利用すると、雌ねじ側のねじ山を損傷し、締められなくなってしまう可能性があることから、同時交換して余計なリスクを負わないようにしている。同時に新品ボルトによる、ねじ山のクリーニング効果も期待できる。

外したケーブルの状態チェック

古いミッションアースケーブル

緑青(=錆)が目に見えるほど発生した、ミッションアースケーブルことエンジンアースケーブルB。緑青にまみれた表面や黒くなっている部分は導通が無く、ボルトやボディの接点を通じて、ケーブル内部でアースが保たれていたようだ。

古いエンジンアースケーブル

こちらはヘッドカバーから出ていた、エンジンアースケーブルA。緑青はないものの、古い10円玉のように黒ずんでいる。先のエンジンアースケーブルBに比べれば、表面の荒れは少なく、導通も確認できた。

緑青の存在は決して悪いものではなく、銅表面に皮膜を作ることで内部の腐食を防ぐ効果がある。日本各地の銅像が緑色になっている要因は、大気、水分、塩分等と銅表面が反応し、生成物によるものが緑青と呼ばれる(鎌倉大仏も緑色)。このため、酸素に触れにくいケーブル被覆内部は、きれいな銅色のコアが出てくる。あくまで銅表面の変化だけで、ケーブル本体に圧着端子やターミナルの金属がしっかり接触していれば、導通は確保されている。

被覆内部の様子

被覆部分と裸部分の境目で切断してみると、このとおり。

被覆内部の様子

こちらも裸部分の表面が変化しているだけで、内部は無事。

プラス側ケーブルの状態は?

アースケーブルの状態が判明したが、こうなるとプラス側ケーブルの具合も気になるところだ。そこで入手できたプラス側ケーブルをサンプルとして交換し、状態調査を行ってみた。

続きは当blogにて記載。link

アースラインを一新したことで、最も変化があったのがエンジン始動時。より甲高い動作音を発するようになって、明らかにセルモーターの回りが良くなった。新品装着前の入念な清掃と、新しいボルトでねじ穴のクリーニングが行われたことで、ねじ山、各端子がしっかり密着するようになった。結果、抵抗が減って大電流がセルモーターに突入しやすくなり、始動性が回復したものと思われる。

アイドリングから発進時におけるエンジンの低回転域においては、オルタネーターの発電能力が落ちてしまい、バッテリーからの給電に頼るしかない。アースラインをリフレッシュしたことで電圧と電流が安定しやすくなり、加速力が良くなるという相乗効果も考えられる。

エンジンルーム内において、純正状態のアースケーブルは僅か3本しかない、とても重要なラインとなっている。しかし扱いとしては散々なものであり、アーシングと称するケーブル増設チューンの効果なのか「どうでもいい部分」と称して、まるであってもなくても関係の無い部品の一つとして見られているのが現状だ。

このアースラインが各種センサーや制御装置の信号基準点であり、エンジンアースケーブルA/Bの2本を撤去すると、エンジンが始動できなくなる。セルモーター用の回路だけでなく、キーの位置がOFFからI(ACC)、II(ON)と変わっていく瞬間からセンサーやECUが起動して始動準備に入るが、このプロセスもアースラインによる回路が成り立っているからこそ、機能することができる。決して「どうでもいい部分」ではなく、そう表現することは己の無知を晒しているのと同義だ。

サービスマニュアル上では、アース系回路の項目が独立して編集されている点からしても、例とするならば手足における小指や外耳の耳たぶのような、目立たないながら非常に重要な存在と捉えることができる。なお、ケーブルの自作については、絶対的な信頼性が求められる部分となるため、最初から考慮しなかった。

走行距離:280,478km

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