北海道森町で起きたカートの死亡事故。車趣味の一環としてカートで遊ぶ立場ゆえ、報道や状況を細かくチェックしながら見守っているところだ。
第一報は報道各社揃って『ゴーカート』となっていたと思われるが、その『ゴーカート』なる表現で想像するのは、大抵以下のような乗り物ではないだろうか。
例えば、東京ディズニーランドのグランドサーキット・レースウェイ。写真は東京ディズニーリゾートブログ、「グランドサーキット・レースウェイ ファイナルラップ・キャンペーン」開始!より引用。
遊園地にあるような、エンジン付きの小さな乗り物だったり。写真はHonda Cafe多摩テックより引用。
ゴーカートという表現では、安全性が確保され、子供でも楽しめる遊具的なイメージが付きまとうのは、私だけだろうか。
実際、事故を起こしたカートは『レンタルカート』『スポーツカート』と呼ばれる、モータースポーツ寄りの乗り物で、決して遊具的な乗り物ではない。
事故を起こしてしまったカートと同じメーカーと思われる、ビレル社のカート。10分3,000円といった枠で素人に貸し出されるため、衝突しても車体へのダメージを最小限に抑えるべく、全周に渡ってガードが装着されている。また、フレームがガッチリと組まれており、それなりの重さ。
こちらはホームコースのフォーミュランド・ラー飯能の無限プレイングカート。先のビレル社のカートに比べるとガードは減っているが、それでも全周に装着されている。
本格的なスポーツカートほどではないが、40kmh程度のスピードは簡単に出て、目線の低さから体感スピードは2倍から3倍。また、スピードを保ったまま旋回すると、3G近くの横Gに全身に掛かってくる。よって全身運動に近いものがあり、夏場に乗ろうものなら一瞬で汗まみれになってしまうし、モータースポーツで一緒に遊んでいた上司に至っては、コーナーというコーナーを攻めすぎて、肋骨を折っていた。レンタルやスポーツと軽めに考えられがちだが、実際はハードな乗り物だったりする。
スポーツカート=4サイクル汎用エンジンとなっているだけあって、この車体にはスバルのロビンエンジンEX21…200ccが搭載されている。セルモーター付きで、レーシングカートのような押し掛けでエンジンを始動し、走りながら飛び乗るといったことは不要。
エンジンからの動力は、チェーンによって伝達される。レンタル(スポーツ)カートだけあって、いかにエンジンの回転数を高めながら走るかが勝負。
レーシングカートの中には、ミッションカートと分類されるシーケンシャル6速ミッションを搭載した化け物マシンもあるが、レンタル(スポーツ)カートの分類とは明らかに異なるので除外。
ブレーキは後輪軸だけに装着されている。走行時におけるブレーキペダルの操作は、コーナーを曲がるためのきっかけとして作用させることが多い。急停止できるほどの減速能力はなく、慌てて急ブレーキを掛けると今度は尻を振るスライド状態になりやすい。既に報道されているが、パニック状態でアクセルペダルとブレーキペダルを両方踏んだとしても、まず止まらない。
フロント側。いわゆる体育座りをして、脚の間に燃料タンクを抱える格好になる。右足がアクセルペダル、左足がブレーキペダルとなり、ここが公道を走る車とは大きく異なる点(少なからず左足ブレーキの人もいるが)。
ステアリングハンドルはギア伝達や補助パワーシステム(パワステ)といった気の利いたものはなく、ロッドを押したり引いたりする単純なもの。こちらも先のブレーキと同様、コーナーを曲がるためのきっかけでしかない。スピードに乗ったままステアリングハンドルを大きく動かすと、今度はスピンすることになってしまい、プラスしてそれなりの力が必要になってくる。
報道上からのゴーカートというイメージを持ったまま、実際のレンタル(スポーツ)カートを見ると全く違ったものになってくるのが分かれば幸い。
この手の報道は、すぐに「危険」「死と隣り合わせ」「子どもに乗らせるなんて」といった非難が続く。将来のレーサーを目指すために、小学生の子が親と共にレーシングカートで走り込みを行い、英才教育を行っている場面も多い。子どもだからダメなのではなく、大人でも事故を起こす可能性は存在する。カートに限らず、過去のドリフト選手権の事故でもそうだが、大丈夫だろうとか、いつもこうだったから…といった甘えた考えから事故は起こる。死亡事故になってしまった以上、今後は仮設コースによるカート体験といったイベントは無くなっていくだろう。
今回はトップスピードに乗ったままピットゾーンに入れて、すぐ後ろにギャラリーゾーンがあったコースセッティングが一因とされる。世間のカートサーキットは安全第一で設計され、走行車両とギャラリーは物理的に近づけないように配慮されていることが殆ど。出走前には必ずミーティングが行われ、「怖いと思ったら減速」「各種旗や信号を常に気にすること」「ギャラリーはコースに近づかない」といったルールが徹底される。双方共にルールを守られなければ赤旗が掲出され、失格として強制終了される。