のろ

「ノロウィルスに感染した乗客がいて、現在は消毒済み。念のためマスクを着用するように」

気だるい朝の点呼の空気を吹き飛ばす、とんでもない通告が親方から発せられた。ノロウィルスに注意ということだ。

過去にも、職場内の人間がノロウィルスにやられて休んだり、感染した経験者から語られる実体験は、けっこう…いや、かなりヤバいことを意識させられる。便器とお友達になれる、便器の前でゲリをするかゲロをするか迷う、ゲリとゲロの同時噴射、メシが一切食えずに体重激減などなど…。

ただでさえ人員がギリギリの職場を蹂躙する、インフルエンザウィルスに並ぶ攻撃兵器に近い。どこからやってくるか、一切分からないことが余計に恐ろしい。

中途半端ながらも病気の知識があることで、ノロウィルスは感染したら最後、治療方法は存在せず、ウィルスが排出されるのを待つしかないことを知っている。感染者の便や吐瀉物は危険物そのものだし、感染者が触れたもの(便所、ドアノブ、蛇口)もアウトとされる。つまり、いかに感染を防ぐかが重要になり、言われたとおりマスクをつけて、さらに手洗いと消毒を徹底するしかない。

普段マスクをつけない人間が、今回ばかりはつけてウロウロしているので、普段以上に変質者とか、過激派の人とか、評判は上々だったりする。手洗いのしすぎで、早くも手荒れの兆しが見えてきたが、ゲリとゲロのダブルアタックを食らうよりかはマシ。しばらくは我慢するしかない。

ノロウィルスといえば、下記の記述がいつも思い浮かぶ。

・牡蠣を食べない20人なら大丈夫だろうと思っていたら牡蠣を食べた1人から全員感染した
・自宅から徒歩5分の病院で感染者が「治療法がまったくない」と追い返されていた
・腹を何度もぶん殴られたと思ってベッドから飛び起きると胃腸が大炎症を起こしていた
・健康な人間が襲撃され、目が覚めたらトイレから出られなくなっていた
・洗面器を持って便座に座る、というか猛烈な下痢と同時に我慢できない吐き気がする
・メトロポリタンホテルの廊下で感染者に嘔吐され、その階と「他の階」にいた全員が感染した
・トイレからベッドまでの10mの間に再び下痢と吐き気に襲われた
・逆性石鹸なら安全だろうと思ったら、ウィルスは全員無事だった
・主な感染経路は患者の排泄物。しかもその粒子が原因だから「全員が危ない」
・「そんなにつらいわけがない」といって出て行った青年がトイレで「ごめんなさい」と泣いていた
・「寝てればつらいわけがない」と安静にしていた青年が腹痛を我慢できずのたうち回っていた
・最近流行っている対策は「うがい手洗い」 それ以外何もできないから
・冬に感染する確率は180%。冬に感染してまた次の冬に感染する確率が80%の意味
・ノロウィルスの感染者は毎年約1000万人。全食中毒に占める割合は33%

もう一つ。

・軍人上がりの8人なら大丈夫だろうと思っていたら力空しく全員感染
・手洗い場の石鹸で手を洗い安心したと思ったら水を止める際にレバーに触れて感染
・急におなかが痛くなったのでトイレへ行ってみるとそこから約30分ほど脱出不可能になった
・家族が急に吐き気、腹痛に悩まされだしたので看病したら2日後に自分を同じ目にあった
・休日にちょっと遊びにいこうと人が混雑しているところに行った次の日下痢が止まらなくなった
・「そんな危険なわけがない」といって生ガキをバクバク食べた父親が次の日倒れて救急車で病院に搬送
・「生ガキを食べず、外にも出歩かなければ大丈夫」と家で過ごしていた長男が感染した家族が使ったトイレを使い感染
・ノロウィルス感染後にできる免疫の耐用年数は1~2年、この先同じ苦しみを何度も味わう可能性が大

具体的な数字はともかく、経験者から語られる実体験に近いものがある。